最後の一撃 ~Purple~ ページ4
『長野さん!好きです!』
「はい、わかったからこれお願いね」
週初めの月曜日。今日もさらっとかわされて、代わりに大量の仕事の資料を受け取る。
私はこの会社に入社して2年目のまだまだへっぽこ社員で、毎日の日課となっている愛の告白を浴びる長野さんは私の直属の上司にあたる。
入社したときに一目惚れしたのがきっかけで日々アタックをしている(未だにまともに聞いてもらったことはないが)。
自分のデスクに着くと隣に座る同期のカナコに今日も元気だねぇと冷やかされる。
『長野さんやっぱりかっこいいな〜男前なのに優しくてほんとに好き!』
「はいはい、てかひろしさんって呼べばいいのに」
私の会社では独自の社内ルールとして年齢や役職関係なく下の名前で呼ぶというものがある。
カナコや他の人達はみんな長野さんのことをひろしさんと呼ぶが私だけは長野さんと呼んでいる。
(だって、下の名前で呼ぶの照れるじゃん…)
「なに照れたような顔してんのよ、毎日あれだけ好き好き言っときながら下の名前呼ぶのは恥ずかしい〜ってか?」
ずばり図星をつかれた私は
『うるさいな〜!』
とカナコを睨んで仕事をするためデスクに向き直った。
隣から聞こえた「はいはい睨んでもかわいいよ」というカナコの声は聞かなかったことにする。
お昼時が過ぎ、あともう少しで退勤時間!と再びやる気を入れ直したところで、部長のせいじさんに私と長野さんが呼び出された。
「なんの御用でしょうか?」
長野さんと並んでせいじさんの前へ行く。
「この資料なんだが、日付と曜日が間違っている。これを作ったのは」
『私です』
ピリピリとした空気の中、すかさず私の責任だと手をあげる。
「もう既にあちらの会社に送ってしまっている、どんなに急いでいても確認は怠るなと言ったよな?」
静かだが怒気を含むその声に少し怯む。
「申し訳ありませんでした。私の確認不足でした」
私の代わりに長野さんが謝っている。
…私のミスのせいで長野さんに謝らせてしまった。
部長のデスクを離れても、長野さんになんとかなるよと励まされても、沈んだ気持ちは浮き上がらないままだった。
それは次の日になっても変わらず、本調子じゃないせいで余計に仕事が溜まり、毎日残業コースという悪循環に陥っていった。
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作者名:それ | 作成日時:2020年12月19日 16時