第二十一幕 蝉噪 ページ23
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上座に置かれた座布団に佇み、神妙に物思いにふける
剣心は、大層近寄り難い空気を纏っていた。
かの宿敵、人斬り抜刀斎と再会して数ヶ月。
緋村剣心が、あの動乱の時代に取り残されていることを
美雨は察していた。全く同じことを、剣心にも思われて
いるとは気が付いていないが＿
「緋村さん、どうかなさいました？」
幕末の記憶に意識を飛ばしていた剣心は、ほんの一息の間の後に、目前でゆらゆらと揺れる黒曜の瞳に気付いた。
いつの間にか、出稽古は終わったのか、汗ひとつ浮かべていない白い顔がそこにある。その肌は、口紅を刺していないと、青白く見えてしまう程で。
＿＿＿＿＿一瞬、亡き前妻と姿が重なって見える。
「……緋村さん」
「すまない。少しぼんやりとしていたでござる」
あまりに物静かな剣心に、心中を察したのか美雨は
少し哀しげに目を細めた。
この人は、時々酷く物憂げな表情をする。
＿どうして、と簡単に問うことができないほど、
心の傷が深いことを、同じ時代を生き抜いた
美雨には分かってしまった。
まるで穢れた俺に触るなと、その瞳が訴えかけている
ようで、美雨は続きの言葉を呑み込んだ。
この人は、私と同じだ＿
「何してるの？剣心、美雨さん」
ふたたび、沈黙を切り裂くような陽のような声。
薫の言葉ではっと我に返り、なんでもないと誤魔化す。
剣心は平然としていたが、美雨はうまく笑えなかった。
薫は少し怪訝そうに首を傾げたが、弥彦に咎めるように
裾を引かれ、そのまま口を噤んでしまう。
「あ…、なんでもないの、薫ちゃん、ありがとう」
「…拙者は前川殿に挨拶してくるよ」
「あ、……」
美雨の気遣いの言葉は、まるでこれ以上口を挟むなと言っているように感じられて、薫は顔を青ざめる。
赤い着物の背中を目で追ったが、名前を呼ぶことは叶わず、ただの音として消費された。
無論、美雨も剣心もそんなつもりなど毛頭無いの
だけれど、二人は言葉足らずだった。
仲間として、全てを打ち明けて欲しいわけではない。
ただ、その重荷を共に背負わせて欲しいと思う。
それが、神谷薫の正直な気持ちだった＿
「私も少しご挨拶してくるね」
美雨は、薫の頭を優しく一撫ですると、剣心の後を
追いかけるようにその場を去る。
力なく伸ばされた薫の小さな掌は、美雨の背中を
掠めることなく取り残される。
＿＿どうして、と尋ねることができるほど、
薫は二人のことを知らないのだから。
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シロナ(プロフ) - 玉ねぎさん» 玉ねぎさん、コメントありがとうございます。ゆっくり更新の作品にも関わらず、お読み頂けて嬉しいです。 (3月3日 11時) (
レス) @page37 id: 02fecad83b (このIDを非表示/違反報告)
玉ねぎ(プロフ) - 続き楽しみに待ってます！ (2月11日 18時) (レス) @page36 id: 42fa138aff (このIDを非表示/違反報告)
シロナ(プロフ) - コロロンさん» コロロンさん、初めまして。温かいお言葉ありがとうございます！沖田君素敵ですよね。私生活が多忙で頻度は下がりましたが、お待ち頂けますと嬉しいです。心のこもったコメントありがとうございました。 (2023年2月4日 14時) (レス) id: 02fecad83b (このIDを非表示/違反報告)
コロロン - 初めまして。コロロンと申します。小説、読ませていただきました！すっごくよかったです！作者さん天才としか思えません！沖田君が結構好きなので、今後も楽しみにしています！更新頑張ってください！ (2023年1月30日 22時) (レス) @page13 id: f9a6fa5b47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：シロナ | 作成日時：2021年10月30日 0時
