film26 心の奥底 ページ27
✤
目を閉じて、思い返せば、あの時の記憶が走馬灯のように、鮮やかに脳内に浮かび上がってくる。
長い睫毛を伏せたまま、顔を上げていたAは、ゆっくりと目を開き、視界に飛び込んでくる星空を、穏やかに見つめる。
｢Aは、昔、鬼道さんと仲が悪かったの？｣
Aの話を聞く限り、鬼道がAに、ボールを蹴りつけたり、睨み合ったりと、険悪な関係だったように思える。
｢あの日まで、しばらく会っていなかったのよ。
影山と出会ってからの、有人はなんだか好きになれなくてね。｣
のりかが、尋ねるとAは、｢ああ｣と懐かしそうに、声を漏らし、あっけからんと答えた。
｢いつも、勝利に囚われていて、何だか窮屈そうに見えたわ。｣
もちろん、あれから和解はしたわよ？と、慌てて付け足すと、のりかはクスクスと、笑いを零した。
Aは、のりかが笑ったのを見て、安心したように、微笑みを浮かべると、のりかの頭に、ポンと、手を置いた。
｢A？｣
突然、ただ黙って、優しく頭を撫で始めたAに、のりかは不思議そうに、名前を呼びかけた。
Aは、眉尻を下げ、慈悲に満ちた瞳で、ぱちぱちと瞬きをする、のりかを見つめる。
鼻の上に貼られた絆創膏が、何だか間抜けで、思わず笑みを零すと、ゆっくりと口を開いた。
｢よく頑張ってるね、えらいえらい｣
｢っ！？｣
母親のようなAの言葉に、のりかは、目を満月のように、丸くすると、唇を震わせた。
頑張ってね！でも、頑張ったね！でもない。
ー頑張ってるねー
その言葉が本当に嬉しかった。
頑張っているつもりでも、中々成果が出なくて、自分が惨めだったのに。Aのたった一言で、心の中のモヤモヤが、振り払われたのを感じた。
例えるなら、草原に風が吹き込んだ時のような、そんな感じだ。
ー誰でもいいから、努力を認めて欲しかったー
無意識の内に押さえ込んで、心の奥底に隠していた、感情を、Aはあっさりと、見抜いて、零れそうになったのを、ふわりと掬ってくれた。
黙り込んでしまったのりかを、心配しているのか、Aは困ったような顔で、首を傾げている。
｢私、やっぱり練習してくる｣
長い長い沈黙の後、のりかは俯いていた顔を、ゆっくりと上げ、呟いた。真っ直ぐで、決意を決めたような、そんな目をしていた。
｢サンドイッチ作るよ！｣
のりかの瞳と目が重なった時、Aは驚いたように、瞳を見開いた。が、すぐに笑顔になると、元気にうなづいた。
星空は、苦難に立ち向かう少女達を励ますように、その輝きを増させていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 27人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
シロナ(プロフ) - 愛音さん» リクエストありがとうございます！水神矢くんは、対王帝戦の前後で、雪乃ちゃんを精神的に支えます。絡みは、少し先のお話で予定しているので、お待ちいただければ幸いです！ (2019年3月20日 22時) (
レス) id: 02fecad83b (このIDを非表示/違反報告)
愛音(プロフ) - 水神矢成龍くんとの絡みをお願いします。 (2019年3月20日 21時) (レス) id: 95fbe585e8 (このIDを非表示/違反報告)
シロナ(プロフ) - あんさん» あんさん、リクエストありがとうございます。鬼道さんとは、星章対王帝の試合で沢山絡ませる予定です！せっかくの幼なじみ設定なので、日常での絡みも増やしたいと思っています(*´艸`) (2019年3月20日 11時) (レス) id: 02fecad83b (このIDを非表示/違反報告)
あん - 鬼道さんとの絡みをお願いします。(￣^￣ゞ (2019年3月20日 10時) (レス) id: 8ea3c89cfc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sirona | 作成日時：2019年2月28日 20時
