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……
「イザナ」
小さな声が響いた。
抑揚のない男の声である。イザナはその声に反応するも決して振り返らずに歩き続けた。
振り返ってはいけないと、イザナの何か警戒をしているのだ。
「振り向くなよ」
イザナは隣にいた男の耳元に顔を近づけると小さな声で呟いた。男、ココは突然顔を近づけられたのでビク!と肩を動かしたが別に驚いてませんけど?という顔で「おう」と返した。
ココは本日の相手としてたまたま天竺に来ていた可哀想な猫である。帰ろうかと一人で歩き出したら何故かイザナ(猫)が着いてくる。ココはなんで着いてくるんだろと思いながら黙って歩いていたら当然「振り向くなよ」である。
とりあえず頷いたけどなんで振り向いちゃいけねぇんだろ。
ココはそういうモノに鈍かった。お化けとか信じねぇし非科学的なものだと馬鹿にしているのだ。
ココはイザナと歩いた。
辺りはどんどん街灯のない薄暗い道になっていく。弱い風が二人の間を通り、塩素の香りが漂う。近くに市民プールがある為だった。
「ねぇ」
「なんで」
「イザナ」
「み」
「はやく」
男の声は次第に大きくなっていく。
イザナは舌打ちをした。今日に限って手持ちがないのだ。ポケットの中を漁っても蘭から「これあげる。いらないし」と貰ったどんぐり飴しかなかった。
なんでこんなん渡したんだアイツ。イザナは少し考えてそれをパクと食べた。飴はイチゴ味である。
「…昔、近所に入っちゃいけねぇ空き家があって、そこに入って迷子になった話聞かせてやる」
「え、嫌だけど」
「馬鹿みたいに暑い日だった。俺は虫かご持ってセミを追いかけてた」
「話聞けよ…!」
イザナはポツリポツリと話し始めた。
セミを追いかけたあの夏の日、空き家の中に入ったイザナは優しい顔をした中年くらいの男と出会った。男はイザナを見るとニコニコと笑いながらキャラメルをくれたのだ。
イザナはオッサンを見た。オッサン草臥れた様子の汚らしい感じの奴だった。イザナは関わっちゃダメなやつ!と直ぐに思ったが如何せんオッサンは「手伝って欲しい」とイザナに縋るのだ。イザナは極力愛想笑いでオッサンから距離を取った。臭いので。
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月野 - この手の話、今まで無かったので新鮮でした!とても面白かったです!!更新楽しみにしています! (2022年10月6日 2時) (レス) @page19 id: dccd327fc0 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 軍時さん» まじですか?ありがとうございます!! (2022年9月25日 22時) (レス) id: 1a9036ae39 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 武道可愛いですねw。空になったペットボトルまだ持ってるなんて…。竜胆は武道になにをあげるんだろう。気になります!斑目の設定考えた主さんが天才すぎる!! (2022年9月25日 22時) (レス) @page19 id: 1a9036ae39 (このIDを非表示/違反報告)
軍時(プロフ) - 零さん» 特殊な訓練を受けている彼らだからこそ出来る対処法なので実際には…です笑なのでたけみっちがペットボトルをブンブン!と降っても除霊は出来ないことになりますね、かわいいですね🌼楽しいと思って貰えてとても嬉しいです🥰コメントありがとうございました! (2022年9月25日 18時) (レス) id: 9794be9817 (このIDを非表示/違反報告)
軍時(プロフ) - 零さん» 大丈夫ですよ〜!ゆっくりにはなりますが更新頑張りますね💪 (2022年9月25日 18時) (レス) id: 9794be9817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:軍時 | 作成日時:2022年9月13日 11時