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「だからって横取りはダメっすよ」
「横じゃねぇ。正々堂々行くから正面だ」
「何言ってんだイヌピー」
ワイワイと話す四人組の中で唯一千冬だけがずっと無言である。花垣は(大丈夫かコレ)とパフェを食べながらずっと千冬を伺っていた時である。
「場地さん。あの人と手ぇ繋ぐだけで顔が真っ赤になるんス」
「千冬?」
ユラリとゆっくりと顔を上げながら千冬が口を開けた。
これは荒れる。花垣はソと目を逸らした。
「歩く時も車道側はぜってぇ歩かせねぇし、クレープ食う時だってあの人の事ずっと幸せそうに見つめてたし、猫と遊んでる時もあの動物が好きな場地さんが猫じゃなくてあの人を見てたんスよ」
場地さんのあんな顔、初めてみた。
千冬はギュ!と眉を吊り上げながら乾を睨み付けた。その目はマジである。
「それなのに、アンタはその幸せなカップルを潰すって言うんすか」
二人はたっぷり四秒間睨み合った。
猫と犬の睨み合いであった。
九井は「すみません、和風ハンバーグ定食とグラタンお願いします」と注文していたし花垣も「あ、おれフライドポテト食いたいっす」とそれに乗っていた。
極力関わりたくないのだ。この2人。
九井はこの時初めて花垣と息があった気がした。
九井は少し花垣が苦手だったので。
だってコイツ、予期せぬ行動ばっかり起こして場を引っ掻く。なのに事態は毎回花垣のいい方に進んでいくのだ。
九井はそれが何だか怖かった。
だけど今は九井、その予期せぬ行動に期待していた。
場を引っ掻いて話をぶった切ってくれないかな。と
それと同じく、花垣は(ココくん何とかしてくれねぇかな)と九井に期待していた。
お互いがお互いに自分から止めようという気持ちはなかったのである。
「それくらい、俺だってやれる」
「イヌピーくんはやれるかもしれねぇけど、あの人はそうとは限らねぇッスよね」
「それは、付き合っていくウチにいずれ」
「人の幸せ奪っておいてっすか?それがあの人の幸せなんすか?」
「……」
「あの人の事が好きなら、幸せにしてやりてぇなら、ちゃんとあの人の事を考えてやって下さいよ」
自分の気持ちばっかみて、イヌピーくんは今こうなってんすよ。
千冬は両手を顔の横につけて「こう」と目を細めた。
視野が狭くなってる、というポーズである。
乾は何かを考えるようにグと唇を噛み締めた。
花垣は千冬すげぇな、イヌピーくんを論破したと呑気にポテトチマチマ食べていた。
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作者名:軍時 | 作成日時:2022年9月5日 20時