恋愛なんてしたくない。【黒】 (ページ17)

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ん？いまどういう状況？

一旦頭を落ち着かせる。

けれどそれまで感じなかった彼の香りが、

香水のような甘いものではなく、

せっけんのような優しい柔軟剤の香りが、

余計に私の鼓動をはやくする。

｢ちょっ、ちょ、蓮くん！｣

慌てて腕をほどいて距離を開けた。

｢どーしたの急に！具合悪い？｣

『ねぇ…A隙だらけ』

｢…へ？｣

『こんなに簡単に男を家にあげちゃうの？』

そんなわけない。
むしろ私は今まで男性を避けてきたから。

それなら私はどうして蓮くんを家にあげたんだろう。

…違う、そういうことじゃない。

この気持ちに気づいてはいけない。

もう傷つきたくない。

私は心の隅にある感情に蓋をした。

｢違うよ、蓮くんは信頼できる友達だから」

“友達″ そう思っていれば全てが楽になる。

難しいことを考えなくて済む。

一瞬だけ曇った彼の表情

『俺のことちゃんと意識して』

蓮くんは

簡単に、でも真っ直ぐに、

“友達″ という枠を壊そうとしてくる。

『もう1回抱きしめていい？』

私は熱くなった顔を隠すように下を向いて
フルフルと首を降った。

『ごめん、聞いた意味ないかも』

そう言って蓮くんは私を優しく抱きしめた。

きっとほんの数秒

でも私には数分に感じた

「蓮くんっ…どうしたのほんとに」

私はまた腕をほどいて抜け出した

蓮くんは私の“友達″だから

いいタイミングで止んでくれた雨を言い訳にして、彼を帰らせた。

「あ、ほら雨やんだよ！そろそろ帰りな！」

『わかった、ありがとう』

「こちらこそ、今日はありがとう！」

『また来るから』

｢え…あ、うん｣

蓮くんが帰った後の私は放心状態

テーブルに突っ伏して考える。

さすがの私も気づいていないわけじゃない。

蓮くんが抱いている感情は

きっと友情とは違うもの。

だけどそう思って失敗したことが
今まで何度もあった。

いつかは離れていってしまう

アイドルという肩書きを持つ蓮くんならば、なおさらのこと。

もう嫌なの、1人になるのは。

私は自分を守るために

色々な感情に

気づかないフリをした。