桜前線 1【GO】 (ページ17)

今日:51 hit、昨日:4 hit、合計:4,034 hit

17　葛藤の苦しさページ17

家に戻るなり、神童くんはリビングの椅子に座って項垂れた。

「あいつらがあれだけ頑張っているのに...。やっぱりキャプテンの資格なんてないですね」
「そんなことないよ」
「...思うんです。楽しいサッカーができたら、どれだけ楽かって」

膝の上に腕を置き、さらに俯く。

「サッカーに向き合えって、...あいつのボールはそう責め立ててくるんです」
「責め立ててくる？」
「この前の練習試合、あいつは何度も俺にパスを出してきました。最初は無視してたんです。でも、どれだけ傷ついても必死にパスを出してくるあいつを見ていたら、自分が情けなくなってきて。現実に、サッカーに、向き合えていないのは俺の方なんです」

感情が高まり、震える声。彼の足元にぽたりと一滴の滴が落ちた。私はティッシュを彼の前に置いた後、隣に座って寄り添った。背中を優しく摩り、彼から溢れ出る話を傾聴する。

「...ッすみません。俺、泣いてばかりですよね」
「泣いていいんだよ。泣いてるってことはさ、それだけサッカーに向き合ってるってことなんじゃないかな」
「！」
「今、神童くんの心の中で、なにか変化が起きているんだと思う。でも、変化って怖いからさ。できるなら向き合いたくないし、現状維持したいよね」

自分にも言い聞かせながら、言葉を紡いでいく。

「わからないから怖いんだと思う。それだけ大きな未知の領域に立ち向かってるってことだと思うよ」

神童くんは髪が荊のように顔を覆ったまま、ゆっくりと頭を上げる。沈黙の時が訪れた。ふと、肩に重みが加わったのを感じた。

「しばらく、こうしていてもいいですか」

自分の肩に頭を置かれていた。頼られているのだと感じて、受け入れた。

「うん」

二人だけのリビング。数分間はその状態で過ごした。