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冷える足元に視線を移して、なかなか来ないタクシーを諦めて歩き出す。並ぶ外灯の明かりを頼りに進むと流れるバラードとともにあの頃が浮かんだ。
初めて知った失恋の痛みとショックを引きずっていた予備校の帰り道、顔を上げ見つけたのはオリオン座。真ん中に三つ並ぶ星が目印で 外側の輝く白い星はリゲル、赤い星はベテルギウス、それは冬の大三角のひとつ・・
迫る試験に必死になって問題集の隅々まで暗記を唱えていたのは今日と同じクリスマスイブの日だった。
後ろから リリーンと聞こえた自転車のベルに体を端によけてかわした。
「よかった!見つけた!」
歩道脇、キュッと自転車をとめて現れた煉獄君から「試験頑張ろう!」と手渡されたしおりには赤いリボンと中央に『合格』の文字。はみ出るくらい豪快に筆で書かれた筆跡から溌溂とした声がいまにも聞こえてきそう。ただ嬉しくて大切にして試験当日にはたくさん勇気をもらった事も昨日のように覚えてる。ずっと手離せず今も持ち歩いてる大切な贈り物。
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「よかった!追いついた!」
あの時と同じように息を弾ませる姿にドキッとして、記憶の中のおぼろげな声と重なる大きな声に現実に戻される。
「歩きか?」
「…うん」
「俺もだ!」
そう言って先を行く彼の後ろに続いた。
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作者名:ふゆ | 作成日時:2023年12月2日 17時