今日も推しは顔がいい

. ページ14

そして今日はついに、Aさんと約束した日


余裕をもって待ち合わせした時間の20分前に着くように来たけれど


さすがに気合入れすぎただろうか


なんて少し恥ずかしくなった俺の進行方向の先には見知った姿


待ち合わせ場所にはすでにAさんがいた


もしかして俺が遅れてしまったのかもと慌てて腕時計を確認すると


時刻は10時40分になったところだ


ちょうど待ち合わせの20分前


暗くなっている携帯の画面を鏡にして前髪を整える彼女に


声を掛けることはおろか歩み寄ることさえ忘れて見惚れてしまった


可愛い、まじで可愛い


もちろんAさんのことは初めてその姿を見たときから


ずっと綺麗だなとは思っていたけれど


今日は特別でものすごく可愛い


しかも、その可愛いが俺と会うために用意されたものだと思うと


堪らなくなる


なんて、もし違ったら恥ずかしいけど。




「Aさん。」




今この瞬間の幸せを思う存分噛み締めた俺は、


やっとAさんに声を掛けた。




『…え！猪狩くん！早くない！？』

「待たせちゃってすみません、俺も早めに来たつもりだったんですけど…」

『ごめんね！私が早く来すぎただけ！』

『楽しみで、つい…！』




なんて続けたところでハッとしたように口元を手で覆った


本当はこんなこと言うつもりなかったのだろう


いつもみたいに頬が染まってて可愛い。




「そう言ってもらえて嬉しいです、俺も楽しみすぎてあまり寝られなかったので」

「隈とかできてないですか？」




少し身を屈めて顔を覗き込むようにすると


Aさんは半歩下がって、顔を自らの手で隠した




『ぜ、全然大丈夫、です、今日も顔がい、じゃなくて、カッコイイ、です』




照れさせてやろうとは思っていたけれど


こんなにストレートに褒められるとは思っておらず


自分の体温もどんどん上昇するのを感じる


こんなの反則すぎるだろ




「…とりあえず、予定より早いですけど行きましょうか」

『そ、そうやね』




少しぎこちない動作で隣に立ったAさん


本当は紳士的に完璧なエスコートをする予定だったのに


顔の熱が引くまではそれも叶いそうにない。

多分今日がわたしの命日→←.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す