検索窓
今日:12 hit、昨日:61 hit、合計:241,683 hit

第124話 mm ページ31

「なんでだよ。
まあ確かに今隣にある康二の体温とか、さっき食べた料理とか、久しぶりだなって感じはしたけど。
でもそれは忘れてたものを思い出すっていうより、帰ってきた感じがしたっていう方が強いって俺は思ってる。」


不安げな顔でこっちを見てる康二の頭に手をのせる。
目からでも、手からでも、とにかく、俺の気持ちが康二に届くように。


「だから変わらず、ここで俺を待っててくれて、ありがとう。」


そう言って、細っこい体を抱き寄せた。
そうしたら康二の腕もゆっくりと俺の背中に回されて、このまま甘やかしたくなる、けど。
今日は、先に伝えなきゃいけないことがある。
だって帰る前にあんなの伝えてここに康二一人を残すのは、俺が心配すぎて多分無理だし。
こんな状態の康二に伝えるのも正解とは言えないって、分かってるけど。


「…康二。」
「ん?」


そっと体を離して、目を見つめる。


「一つだけ、今日はどうしても伝えておかないといけないことがある。」
「その言い方、ええ話や無さそうやな。」


俺の声のトーンとか雰囲気で察した康二は、困ったようにへらりと笑った。


「うん、そう。
プロジェクトのことだから。」
「…聞きたくは、無いなぁ。」


こうやって無理に笑わせることを、俺は後何回繰り返すんだろう。


「でもいつかは知ることやから、めめは自分の口で直接言おうとしてくれてるんやもんな。」
「ごめん。」
「なんでめめが謝るんよ。
決めたんは事務所やろ?」


そうだって、言えたら良かったけど。
今からすることは、紛れもなく俺が選んだことだ。


「ほんと、ごめん。
…阿部ちゃんと、また撮られないといけなくなった。
デート中ってことで、キスしてるところ。」
「そうなんや…。」
「それから、二回目だから大袈裟に書かれたりとかするらしい。
でも俺が好きなのは康二だけだから。
何を読んでも、見ても、それだけは信じてほしい。」


なんだか浮気した男の安っぽい言い訳みたいだなと自分で言っておきながら思う。


「…そっか。
うん、…分かった。」


そう言葉は返ってきたけど、そっと下を見た康二は、色んなものを諦めてるみたいに見えた。
それでも、康二と会える権利を前にして、この仕事をやっぱりやめると放棄することが出来ない俺は、その表情の意味に気付かない振りをするしかなかった。
ほんと、今の俺って、安っぽい男だ。

第125話 kj→←第123話 mm



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (398 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
756人がお気に入り
設定タグ:さくあべ , skab
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

葉子(プロフ) - ゆきのさん» この音声が公開される日はあるのか否か…、ですが、この事務所なら切り貼りしかねないですよねぇ!どうやってこの沼から脱出するのか、誰がその一歩を踏み出すのか、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです! (2021年2月6日 22時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
葉子(プロフ) - かおるさん» この小説で何度目だ!?と突っ込みが来そうな展開で申し訳ありません(汗)相変わらず可哀想なあべさんです…。さくまさん視点更新しますね…! (2021年2月6日 21時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
葉子(プロフ) - みなみさん» 忘れずにいてくださったことに感謝です…!下書きが最近あまり進まないのですが、こんなに長い丁寧なコメントいただけたので、すごく励みになりました!頑張ります! (2021年2月6日 21時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
葉子(プロフ) - みなみさん» ーの助けはあると良いですよね。事務所側にも完全に陥れられている状態なので…。さて、mmさんがどう振る舞うか、iwsk、iwfkがどうなるのかは、さすがに愛の権利4で明かしたいところです!後者二つは最近mmab案件で完全に放置しているも同然な扱いですみません…!最早 (2021年2月6日 21時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)
葉子(プロフ) - みなみさん» 文明の進化ってある意味厄介なところありますよね、リアルでも。と、思っている機械音痴な私です…!今までのことも譲るのが1万歩だったことに思わず笑ってしまいました(笑)そんなに譲歩してくださるとはある意味お優しい!(笑)確かにこれだけ泥沼化しているのでメンバ (2021年2月6日 21時) (レス) id: f3c5f4857a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:葉子 | 作成日時:2021年1月17日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。