絶対に彼なんて…【青】 (ページ9)

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次の日のお昼休み

「深谷さん、ちょっとええ？」

これまで、他の子達がいる前では、私に話しかけてこなかった安田くんが、突然教室に現れた

「何？どうした？」

「ごめん。ちょっと付き合うてくれる？」

いつになく真剣な表情の彼について行くと、屋上にいたのは

「……前野さん？」

「あのっ。昨日はごめんなさいっ」

「え…と。私は大丈夫だから。それより安田くんにひと言…」

「ええねん。それはもう、話ついてるから」

“ごめんなさい”ともう一度頭を下げて、走り去って行った前野さん

「金輪際、こういう事がないよう、お灸を据えといたから、大丈夫やと思う」

「あっ…うん」

「ごめんな？俺のせいで、深谷さんに怖い思いさせて」

「ううん、それは全然…」

「あの…さ？俺、今月一杯でピアノ、辞めよう思って」

「なんで急に？」

「深谷さんに迷惑かけるし…」

「そんなっ、迷惑なんて…」

「……やっ。もう決めた事やから」

「でもっ」

「なに？深谷さん、俺が辞めてまうのが寂しいん？」

「はっ？そんなんあるわけ…」

「ふふっ。とにかく明日のコンサートは見に行くから。また後でな」

手をヒラヒラさせながら、安田くんはドアの奥に消えて行った

なに、あれ……

彼がレッスン辞めるのが寂しいなんて事、あるわけがない

……事もない、のかも

「A、大丈夫？」

「うん、大丈夫」

突然安田くんが弾けなくなって、母は出演を辞退してもいいと言ってくれたけど、彼との約束もあって、1人でステージに立つ事に

コンサートには、積極的ではない私の変化に、母は不思議そうにしていたけれど、着々と近づく出番

母と一緒に手直しした、連弾の楽譜を持ってステージに上った

深呼吸を一つして、始めた演奏

1人で弾いてるはずなのに、ずっと2人で練習してたせいなのか、2人で奏でている感覚に陥った

演奏が終わると、いつもよりも大きな拍手で興奮気味の私。そんな私の目に、1番後ろのドアからホールの外に出て行く彼の後ろ姿を捉えた。

足早にステージを降りて

「………っ、安田くんっ」

ロビーを歩く安田くんを呼び止めた

「なんで？帰っちゃうの？」

「えっ？演奏会、終わったから？」

「そっ…だよね。えっと、さ？安田くん、今からちょっと時間、ある？」

「あ～…ええけど」

今度は、安田くんと2人、今来た道を戻って行った