絶対に彼なんて…【青】 (ページ6)

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「え～っ、照れるなぁ。上手く弾けるかなぁ？」

フワフワとした雰囲気の中、楽譜を立てて椅子に座った彼。鍵盤に手を置いた瞬間、雰囲気が一変し、彼の目の色が変わったのが分かった

ピアノを初めて1ヶ月足らずで、ここまで弾けるようになるなんて…
母が褒めるのもわかる

「なぁ、どぉやった？自分では、まぁまぁやったと思うんやけどっ」

目キラキラさせて、まっすぐ見つめられると

「う…うん。良かった、と思う」

文句のひとつやふたつ、言ってやろうかと思ってたのも、忘れてしまった

「やった。ほんなら俺、深谷さんの相棒、合格やね」

この日、安田くんと一緒に音を奏でてみて、久々に感じた感覚

初めてピアノに触れた時の、ドキドキとワクワク

2人での練習時間は、あっという間に過ぎていった

いつもは、何人もの女の子が列をなす、校門前。今日はさすがに誰もいなかった

「はぁ～、久しぶりやわ。こんなにスムーズに帰れんの」

「安田くんって、本当に凄い人気だよね？」

「あ～…あのさ？深谷さんっえ、俺ん事、ちょっと誤解してへん？」

「えっ？」

「誰にでもええ顔してる、八方美人みたいに思ってるやろ？」

「……………まぁ」

「やっぱり。俺さ、自分で言うのもアレやけど、これでも表に出してる方なんやけど」

「そうなの？」

「嫌な事はイヤって、はっきり伝えてるんやけど、なかなか聞き入れてもらえんくって…」

“困ったもんやわ”と、呟く安田くんと信号待ちをしていると

「あのっ！」

後ろから、2人組の女の子が声を掛けてきた

「安田くん、ですよね？」

「そぉですけど」

私の存在なんて、お構いなしに

「私達、聖女の3年生なんですけどっ」

グイグイ彼に詰め寄る2人組。本当だ。あんなに嫌そうな顔してる安田くん、初めて見たかも

「連絡先、教えてもらえませんかっ？」

「あの。僕ら初対面ですよね？そんな人に連絡先、教えられません」

「じゃあっ。今度会った時に…」

「友達でもない人に、連絡先なんて教えません。迷惑なんで、帰ってもらえますか？」

安田くんの口調は、結構強めだけど

「また来ますっ」

女の子達は、そんな事に気も付かず

「安田くんと喋っちゃったぁ」

と、キャッキャしながら帰っていった

「な？いつもこんな感じやねん」

力なく笑うその顔は、私が知ってる彼の笑顔とは真逆で

“遊び人で、すごく嫌な奴”

と言う私の印象は、少しだけ変わっていた