絶対に彼なんて…【青】 (ページ5)

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「A、ちょっと相談があるんだけど」

彼が、母のレッスンに通い始めて、1ヶ月が過ぎた頃

「…………何？」

母がこう言ってくる時、私にとって良い事だった試しはない

「あのね？今年のバレンタインコンサートなんだけど…」

毎年2月14日に行う、バレンタインコンサート。ピアノ教室の生徒さん達の発表会を兼ねて行うコンサート

私も、中学生の時は演奏してたけど、ここ2年は裏方としてお手伝いをしている

「久しぶりに、貴女も出ない？連弾なんだけど……」

イヤな予感しかしないんだけど…

「安田くんと、どぉ？」

…………やっぱり

「何で？安田くん、出来のいい生徒なんでしょ？私と連弾じゃなくて、ソロで弾いてもらったら？」

「まぁ、それでもいいんだけど…バレンタインだし、男女の連弾とか、あってもいいんじゃないかな？って、安田くんが」

「はっ？アイツの意見なの？」

「そうよ。安田くんも貴女と弾きたいって言ってて」

目の前に出された楽譜

「もう決定だから。練習しておいて。あぁ、あと私、他の生徒さんのレッスンで忙しいから、2人で練習してね」

「ちょっと、待ってよっ」

母が部屋を出て行ったと同時に、携帯電話が音を立てた

『先生から、連絡先教えてもらいました。これからよろしくな』

そんなメールに返信する気になれず、そのままにしておいたら、再び鳴った携帯

『早速やけど、明日の放課後音楽室で練習せぇへん？』

もう、断ることは出来ない状況。出来ることなら辞めたいけれど、ステージに穴を開けることは、あってはならない事で

「はぁ～……」

大きなため息と一緒に

『わかった』

一言だけの返信をした

次の日の放課後。音楽室には、まだ彼の姿はなかった。ひとりピアノに向かう事30分

「ごめんっ、遅なって」

駆け込んできた彼に視線を送る事なく

「早く用意して。時間がもったいない」

そう言い放った

ここにくる前、クラスメイトと楽しそうにお喋りしてた彼。自分から誘っておいて、お喋りしてて30分遅刻って、どーいう事？

イライラする気持ちと共に

「1回、最初から弾いてみて」

母が、あれだけ褒める彼の音、初めて聴けるという期待もあった