我が恋よ、散ることなかれ【浦島坂田船】 (ページ40)

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　閉じられた襖の向こうから聞こえる怒鳴り声。若衆の声は聞こえない。まだ来ていないみたいだ。

「申し訳ありんせん旦那様っ！今少しお待ちくださいなし！」

「もう半刻も待っているのだぞ！羅里はいつ来るのだ！」

　成る程、この客は羅里花魁のお客なのか。となると今なだめているのは名代(みょうだい)の新造……。大丈夫だろうか。怒鳴っている客に手を出されないといいけれど。
　そんなことを思っていると回廊の向こうから彼方さんがくるのが見えた。「彼方さん！」と声をかけようとすると。

「やっと馴染みになったってのに！……くそ、仕方ない。花魁が来るまでお前に相手してもらおうか。」

「ひっ！だ、旦那様落ち着いておくんなし！」

「うるせえ！いいから大人しくしろ！！」

　スパーンッ！！

　勢いよく襖を両方に開き、お客に壁側に追いやられている新造の前に立ち、伸びた腕を掴んだ。お客は何処かの大店の若旦那のようだった。

「おやめください、若旦那。新造に手を出すのはご法度、それは若旦那もご存知でしょう？」

「あ？なんだてめえ。お前も女郎か？」

「いえ違いますね何処をどう見たら女郎に見えるんですかこんな色気のない子供体型の私の何処が女郎な訳ないですよねええ！！……あ、悲しくなってきた。」

　引いた目で見てくるお客と新造ちゃん。……うん、ごめんね。ちゃんとやるからその憐れんだ目はやめてね。

「……私は若衆です。腕を下ろしていただけますか？」

「ちっ……例の女の若衆かよ……。」

　お客は腕を引っ張るようにして腕を収めて腕を組んだ。後ろで座り込んでいる新造ちゃんに部屋を出るように声をかけ、お客と向き合う。めっちゃ睨まれてるのだが。
　とりあえず、なんとか落ち着かせなければ。正直こんなことになってもう帰ってもらいたいが花魁を買うぐらいだから腐ってもいいお客。若衆の私の一存でどうこうはできない。せめて花魁が来るまで間を持たせないと。

「若旦那は先程"やっと馴染みになった"と仰られていましたね？それなのにこんな事をしてしまったらうちの花魁と言葉を、枕を交わせる権利を失うことになるのですよ？」

「……。」

「花魁を買うには莫大なお金が掛かります。それでも会いにきてくださること、一介の若衆如きが勝手ではありますがお礼申し上げます。だからこそ、若旦那に後悔して欲しくありません。どうかご理解ください。」

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※名代･･･花魁の客が被った際に代役として座敷でお客の相手をする新造のこと。