我が恋よ、散ることなかれ【浦島坂田船】 (ページ38)

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「今日は花魁の髪結いを見に行きましょうか。」

　髪結いの勉強を初めて3日程だったある日。髪結いを教えてくれている人がそう言った。
　花魁の髪型……あの大きいやつだよね？確かにあれってどうやってるんだろう？めっちゃ簪刺さってるし。
　花魁担当の人＿柚さんというらしい＿に連れられて向かったのは百合の花の描かれた襖の部屋の前。

(あれ、ここってまさか……。)

「羅里花魁、髪結いに参りました。」

「……ああ、お入りなんし。」

　やっぱり羅里花魁の部屋だ。あの人の視線は苦手なんだよ……。でもこれは仕事だ。ここで帰るわけにはいかない。腹を括って入ろう。
　柚さんに続いて部屋に入る。彼はまだ着物は着流しのままだった。

「柚さん、今日もよろしく頼んます。」

「ええ、お任せください。」

「ところで……なぜ若衆さんが？」

　彼は柚さんの後ろに控えている私を見て問う。その目にはやはり、何処か暗い感情が見える。なんなのだろうあの感情は。

「先日、内儀さんに髪結いを習わないかと言われまして、現在教わっております。今日も花魁の髪結いを見学させていただきに参りました。……よろしいでしょうか……？」

「……そう、わっちはかまいんせんよ。」

「ありがとうございます。」

　許可をもらい、髪結い道具と髪飾りを準備する。その間柚さんと会話する彼を盗み見ると、着物の袖を口元に添えながら穏やかに微笑んでいた。けれどもその笑みは愛想笑いのような……本心からの笑みではないように見えた。
ああ、彼も何かを抱えている。もっと自由に笑えればいいのに。同情のような何か。彼はそれを望んでいないはずだけどどうしても、そう思ってしまう。

「さ、始めましょう。」

　手際良く結っていく柚さん。流石ベテランだ。徐々に形が整ってきて、簪などが刺されていく。その間彼は目を伏せて何かを考えているようだった。
　途中、彼の新造や禿たちが部屋に入ってきて着物の準備を始める。ちらりと見ると豪奢な着物と帯がずらりと並べられている。

　確か今日も彼は道中があったはず。更にお客が3人ほど被っていた。それぞれ部屋を確保するため準備が大変だった……。最後は道中で迎えに行く方が相手になるのだけれど。
　……彼は、女性を抱くこともあれば男性に抱かれたり、抱いたりする花魁だ。女性にも男性にも人気な彼は他の四人より圧倒的に負担が大きい。

　そんな彼に、何かできたらいいのだけれど。……せめて、落ち着ける場所くらいは作ってあげたい。