我が恋よ、散ることなかれ【浦島坂田船】 (ページ33)

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第肆章「孤独の百合の黄金色」ページ33

*

　彼の指が肌を伝う。私の肌をなぞる指が際どい部分へと迫っていた。
　漏れそうになる声を唇を噛み締めて耐えるも、この手の感覚は初めてで擽ったさと恥ずかしさに耐えるのは辛くなってきていた。

　そんなとき。とんとんとん、と襖の向こうから足音が聞こえてきて部屋の前で止まる。

「浦里花魁、いらっしゃいますか？」

　この声は確か私より2年先輩の若衆の声だ。

　浦里花魁は手を止めると私を押し倒したままチッと小さく舌打ちをした。

「どうしんした？」

「楼主様がお呼びです。部屋に来るようにと。」

「今すぐかえ？」

「はい。」

　よかった、これで解放される。

　心底ムカつくとでも言いたそうな歪んだ顔が私を見下ろしていた。そんな顔も色っぽく感じるのは彼がイケメンだからか花魁だからか。

　でも、それでも。

(怖い…っ)

　坂田さんや紫里花魁にこんな風に迫られた時は感じなかった圧迫感。恥ずかしさよりも恐怖を感じた。

　私は年齢＝彼氏いない歴ではあるけれど、彼らの思いを察せられないほど鈍感ではない。まあこれが花魁達の手法だとしたら違うのだろうけど。
　まあ本当だとするのなら、私が彼らに抱く感情は彼らとは別物だ。

「……はあ、分りんした。すぐ参りんす。お主はお下がりなんし。」

「失礼いたします。」

　若衆が去っていき足音が聞こえなくなると浦里花魁は私の上から降りていった。私は彼から離れるために急いで起き上がり襖の方に下がった。

「私も、失礼します。」

「……。」

彼は無言だった。気まずい空気が流れる。早く出て行こう、と襖を開けて部屋を出る。"待って、"なんてか細く小さな声は襖の閉まる音にかき消され私の耳には届かなかった。

　後ろ手に閉じた襖から離れて階段を降りる。とりあえず厨に行って彼方さんの指示を貰おうかな。

「あ、ちょうどよかった。A、ちょっといい？」

　厨に入ると彼方さんに呼び止められた。なんですかー？と近づいていくと彼方さんに着いてくるように言われ後を追う。

　連れてこられたのは洗った物を畳んだりほつれを直したりするために使っている部屋。そこで彼方さんが指さしたのは他とは違う豪華な刺繍がされた負担だった。
　……まるで、花魁の布団のような。

「これを運んで欲しいんだけどいいかな？」

「いいですけど…どこにですか？」

　そう聞くと彼方さんはニヤリと笑って言った。

「この見世の一番人気の花魁、羅里花魁の部屋。」