我が恋よ、散ることなかれ【浦島坂田船】 (ページ15)

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「え、えっと……。」

「受け取ってや。せっかく買ったんやし。」

「……ありがとうございます。」

　お金を出していただいてしまったのに貰わないのは失礼か……と箱を受けとる。彼は嬉しそうに笑うと、私が持っていた風呂敷を持った。

「え、あのっ！！」

「ええから、その箱落とさんように持っときぃ。これは運んだるから。」

「そんな、耳飾りいただいてそれもは……。」

「……あかん？」

　うっ、そんなしょぼんとした声を出されると……断りきれない。
　見世に向かいながら、彼とならんで歩く。歩いている間、彼は私に仲ノ町に並ぶ見世について教えてくれた。なかなかに詳しい説明で、この人遊び人か？なんて思ってしまうほどだ。
　基本吉原では敵娼(あいかた)を作ると他の見世の女郎と床を共にすることは浮気とされており、認められていないのだとか。でもよっぽどのお金持ちや将軍などだったらそれは見逃されるらしい。彼もそんな感じなのだろう。

「あ、ここら辺で大丈夫です。」

「そう？まあ俺もここら辺にやからええか。はい。」

　見世の前で彼にそう声をかけた。さすがに裏に客を連れてきてはいけないだろうから。意外と簡単に返してもらえた。

「ありがとうございました。」

「はいよー。」

　もうすぐ夜見世が始まる。吉原の夜が始まり、大門が開いて客が入ってくるだろう。……うん？じゃあなんで彼はここにいるんだ？
　バッと彼を見ると、彼は私をじっと見ていた。そして笠の下からニタッと笑い、私に背を向けて見世に入っていく。

「え、あの！まだ営業してませんけどっ！？」

　焦って追いかける。彼は堂々と見世の入り口から中に入った。

(え、ヤバいヤバい止めないとっ！！)

　彼に続いて見世に入る。……しかし、私と同じように思った人はいなかったらしい。

「あ、お帰りなんし！」

「兄さん！」

「ちょ、花魁！今日は道中があるから早く帰ってきてくださいとあれほど言ったではありんせんか！！」

「え、花魁……？」

　この笠の人が……？

「ごめんなんし。ちょいとそこで若衆さんと会って一緒に帰っておったのじゃ。」

　廓言葉。彼は驚きと戸惑いで固まっている私の方を見た。くすりと笑い笠をとる。はらりと揺れた、桔梗色の髪。髪と同じ色の瞳。
　妖艶な笑みを浮かべた彼の顔は、いたずらの成功した子供のよう。しかし、その色香は完全に大人のものだった。

「はじめまして、新しい若衆さん。『花鳥風月』の花魁、紫里でありんす。」