我が恋よ、散ることなかれ【浦島坂田船】 (ページ11)

今日:20 hit、昨日:22 hit、合計:247,115 hit

▼ ページ11

*

「じゃあこれから楼主様と内儀さんのところに挨拶に行こ。Aが異世界から来たってことは話してあるからな。」

「え、話したんですか？……信じてもらえました？」

「まぁ……ぼちぼち？せやけど働くのにそれは関係あらへんし、そこは多目に見てくれるらしいわ。」

「そうですか……よかった。」

　まあ逆に疑われない方が可笑しいだろう……。いや、けして彼が可笑しいって訳じゃないよっ！？うん！！
　とにかく挨拶に行かねば。そう思い立ち上がる。……しかし。くいっと袖を引かれる感覚。ん？と振り返ろうとするが立ち上がろうとしたバランスの悪い状態で思った以上に強く引かれてしまったため畳へと逆戻りしてしまった。倒れはしなかったものの、尻餅をついてしまい慌てて両手で体を支える。
　そんな私を彼はただ、見つめていた。

「A。」

　そう言った彼は私にさらに近づき、片手を畳に置いて前傾姿勢になって、もう片方の手を私の頬に添えた。
　急に目の前に現れた彼の整った顔。そして何より近い。顔に熱が集まるのにそう時間はかからなかった。

「俺、頑張ったんだけど？Aが追い出されないように頑張って交渉して。……ご褒美、くれたってええんやない？」

「ご、ご褒美って言ったって……っ！ひゃっ！？」

　彼の畳についていた方の手が私の乱れた着物の間から太ももを人差し指でツーッとなぞった。冷たい感触に変な声が漏れる。
　待って待ってこれヤバくないですかねぇッ！？近い近いどんどん近づいてますけどっ！？

「あああああの、紅里…花魁！？」

「……坂田。」

「へ？」

「坂田優。俺の本名。」

「ほ、本名……？」

　急に何を言うかと思えば本名！？え、教えちゃっていいんですかそれ？

「二人の時は本名の方で呼んで。これで今日は我慢したげる。」

「え、えと……さ、坂田……さん？」

「んーまあええわ。さ、行こー！」

　バッと立ち上がって障子を開ける紅……坂田さん。

「って、何だったの………！？」

*

「……接吻くらいしとげば良かったかなぁ～。」