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意外な程に静かだった。
建物も、ほとんど傷付いていない。
少し血の臭いが生臭いような気もするが、それ以外は、ここで闘いがあったのかと疑いたくなる程に、落ち着いた雰囲気だった。
夜の町を、餓鬼が歩いている。
そいつの手には…………鴉?鎹鴉か……!?
「おい」
肩を叩いて、声をかけると、餓鬼は驚いて逃げようとする。
クッソ……苦手なんだよ、餓鬼とか。Aさんなら、上手く馴染むんだろうが。
「ちょっと待てやァ」
「わっ!は、離せ!」
このままでは逃げられてしまうだろうと考えた俺は、餓鬼をひょいと抱き上げて、
「此処で、何かヤバイ奴出たかァ?」
聞いてみる。鎹鴉は…………ぐったりとしていた。
餓鬼はハッとしたように、俺にグッと顔を近付ける。
「出たよ!出た!怪物が…………家族が、喰われた……」
餓鬼は嫌なことを思い出したとでも言うようにジワッと目尻に涙を溜める。
「あー…………泣くな、泣くなァ。男だろお前ェ…………なら泣くな。ほら」
乱暴に涙を掬ってやると、「…………うん」と、鼻をすする。
そんで、餓鬼は「でも、」と続ける。
「途中で、波がブワッて…………助けてくれた。本当なら俺、喰われてた」
波…………漣。Aさんだ。
「……その人、どうしたァ」
「うん…………でっかい怪物は、沢山いて。お兄さんが、全部やっつけたんだ……そこまでは見てないけど……」
「見てない、だァ?」
餓鬼は、鎹鴉を大事そうに抱えて、震える。
背中をさすってやりながら、話を待った。
「お姉さんが来て、逃げるように言われたんだ…………やられていない皆で逃げた。その間は、凄い音してたけど、何があったかは知らない…………」
「…………そうかァ」
…………Aさんが、自分を犠牲にするように闘った……そういうことか?
餓鬼がまた、泣きそうな顔をするもんだから、「泣くんじゃねェ」と頬を摘まんで、俺は一人、考える。
…………俺こそ、震えるような思いだった。
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mikitty(プロフ) - 好きです!!!! (2022年12月25日 13時) (レス) id: 75972ecbb8 (このIDを非表示/違反報告)
勿忘草(プロフ) - やっぱり何回見ても最高だなぁ、ぐへへ(( (2020年12月19日 14時) (レス) id: 4fc468f2f2 (このIDを非表示/違反報告)
柴犬(プロフ) - 素敵な作品ですね...、愛情表現や色気のあるシーンがすごく好きで一気読みしてしまいました。他の作品も読ませて頂きたいのですがパスワードというのはどちらで伺えばいいのでしょうか...? (2020年5月30日 9時) (レス) id: 87b58a18e6 (このIDを非表示/違反報告)
ohagi - めっちゃ最高でした。自分も腐ってるのでBLの方がよけい萌えました! (2020年3月31日 14時) (レス) id: 8e8ba22e4c (このIDを非表示/違反報告)
ひつじマイケル(プロフ) - お疲れ様です!読んでいてとても面白かったです!よろしければこれの短編集を読んでみたいです! (2020年3月30日 14時) (レス) id: 37a32601d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たつき | 作成日時:2020年2月29日 20時