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午後4時。終業のチャイムが鳴る。

帰宅する生徒や、部活に向かう生徒。忙しそうに書類を持って歩いている先生。そんな人達を掻き分け、私は“いつもの場所”へ小走りで向かう。



(髪も整えたし、口紅も塗ったし……よし)




教室前廊下とは打って変わって人気のないこの場所、化学実験室。走ってきたせいで乱れた息を整えて、私は勢いよく扉を開けた。




「せんせーやっほー!」

「……うげ、また来たん?暇人やなぁ……」



手元にある小難しそうな本から目を離し、呆れた様な顔でそう言った彼……センラ先生に私は顔がほころぶ。

嫌そうな顔をしながら声は優しい所とか、私の相手をするために作業を中断してくれる所とか。


……嗚呼、今日も好き。きっと明日も明後日も、好き。







「……てか、また口紅塗ってるやん……校則違反って何回言ったら分かるん?」


化粧品も没収、と寄越せと言わんばかりにこちらに差し出した手を握って、私は頬を膨らませる。



「もう放課後だしいいじゃん、先生のために塗ってるんだし!」

「駄目なもんは駄目」

「けちー!」



化学教師であり、風紀担当のセンラ先生はこういうのに厳しい。それを知っていながらも口紅は毎日塗る。香水もふる。

単に、自分を飾りたいだけでやっているんじゃない。こうやって校則違反をすれば、先生は必ず“あれ”をしてくれるから。




「……先生、今日はしないの?」

「はぁ……何か、そう言われるとはめられたみたいで嫌なんやけど」



“お望みなら、その口紅取ったるわ”いつの間にか私の腰元に添えていた左手を引き寄せ、私と先生の距離がぐっと縮まる。

そしてそのまま、私の唇と、先生の唇が重なった。


……これはキスじゃない、生徒指導。口紅を落としているだけ。だから校則違反じゃないの。……なんて、自分に言い聞かせて。

言い聞かせているのはきっと先生も同じ。だから、




「先生、好きだよ」

「……はいはい」



先生は一度も、私のことを好きだと言ってくれない。









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作者名:きゃろっと。 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年10月3日 21時

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