●ナゴリノユキ【M】 ページ15
アイツは、いつも俺の後ろを走って付いて来ていた。
それを鬱陶しいと思った時期もあった。
恥ずかしいと思った時期もあった。
「お前、来んな！」
小学校高学年の頃、友達と遊んでた時にもついて来たアイツに言い放った俺を見たその顔が、今でも忘れられない。
目の中にいっぱい涙を溜めて「ごめんなさい、潤ちゃん...」と帰って行った小さな背中を、今でも忘れられない。
5歳下のAは、親同士が友達で御近所さんだっていう典型的な幼馴染だ。
Aが産まれた時、俺は「この世にこんな可愛い生き物がいるのか！」と衝撃を受けて毎日会いに行ってほっぺをつついていた。
そんな俺の姿を見た俺達の親は、この子達が結婚したら素敵だねなんて話してたらしい。
だけど、徐々に俺はAから離れた。
友達と遊ぶのが楽しかったし、女子と一緒にいると冷やかされるのが本当に嫌で嫌で。
その内アイツも俺んちに来なくなった。
それぞれお互いに自分の毎日を過ごして。
俺には彼女が出来て、Aにも彼氏が出来たのか男と歩いてるのも見た。
家が近所だからたまに顔を合わせると、普通に挨拶は交わす。「元気ー？」「元気ー」みたいな。
幼馴染とは言い難い。
単なる顔見知り程度の、付き合い方になっていた。
少しだけその関係が変わったのはAが高3で俺が大学4年だった去年の春。
就活憂鬱だわー...って着慣れないスーツで帰って来た夕方。
近所の公園のベンチに、Aが居た。
俯いてて顔は見えなかったけど、不思議なもんですぐ分かる。
ちょっと癖毛な髪とか、骨っぽい肩とか、内股な爪先とか。それは子供の頃からずっと変わらない。
「...A？」
近寄り声を掛けると驚いたように顔を上げたAは、泣いていた。
「え...潤ちゃん...？どうしたの...？」
「どうしたの？って、そのまんまお前に返すわ」
「あー...アハ、何でもないよ」
「何でも無いのに泣くのか、お前は」
「女の子には泣きたい時もあるんだよ」
Aの隣に座ると、彼女は「何か久しぶりだね」と笑う。
笑うと覗く八重歯も子供の頃と同じだ。
「話題を変えたな」
「え？だって本当に久しぶりだと思ったから」
コロコロと鈴が鳴るように笑うのも、変わらない。
涙の理由は訊かなかった。
Aも言わなかった。
ただ、その日から俺達はまた『幼馴染』に戻った。
「潤ちゃんスーツ、格好良いね！」と言ったAに「当たり前だろー？」なんて返せる事が、何だか擽ったかった。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
