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「お待たせ致しました」
「ありがとう」
「あの」
いつも通りもうストローを咥えてた彼は、眉毛を上げて「ん？」と首を傾げた。
「それ、お好きなんですか？」
「......」
「あ、すみません...毎朝オーダーされるので、お好きなのかなぁ...って」
だって、こんなにチョコレート味でチョコレートチップも入ってておまけにクリームモリモリ。
それをこんなにクールガイ的雰囲気な男性が毎朝飲んでると、やっぱり気になる。
「あー...僕、この春からこっちに異動になったんですけど」
「はい」
「精神的にやっぱり疲れてて。疲れてる時って体が甘い物、欲しません？」
「あ、分かります！」
「だから」
「これ」と、彼はカップを顔の横まで上げる。
「なので明日からも、よろしくお願いします」
「あ...はい！こちらこそ、お願いします！いってらっしゃい！」
頭を下げてお見送りすると、彼もペコっと会釈して店を出て行った。
今日も背筋が伸びている。
午前７時半。
翌日も彼は、やって来て舌を噛みそうなメニューを注文する。
私もいつものようにフラペチーノを作って、彼に渡す。
「お待たせ致しました」
「ありが...アハッ」
彼がカップを見て、笑った。
この店に来て初めて、笑った。
「ありがと、頑張ります」
「あ...はい！頑張ってください！」
彼は私がカップに書いたニコちゃんマークと『今日も一日ファイトです！』の文字をもう一度見てから「行って来ます」と、微笑んだ。
あんな顔して笑うんだ...。
クールガイだと思ってたのに、あの目尻の皺は絶対優しい人にしか出ないヤツ！
もっと笑って欲しい。
もっと笑顔が見たい。
私は翌日は猫を描いて、その次の日はウサギを描いて、その次の日はミッキーみたいな生き物を描いた。
その度に彼は「ウソこれ、ミッキー？」なんて笑って、「行って来ます」と軽く手を振ってくれるようになった。
彼の来る午前７時半が、楽しみになった。
今日は何を描こう？って考えるのが、楽しみになった。
私は、きっと毎朝彼を待っていた。
「お待たせ致しました」
「ありがとう...あ」
「え？」
「僕、これが一番好きです」
そう言った彼は、カップに描かれたニコちゃんマークを私に見せた。
「初めて描いて貰ったヤツだから余計に」
「え...覚えててくれたんですか？」
「勿論。嬉しかったんで写真も撮りましたよ、青空を背景にして」
私の偏見を見事に全部消し去った彼に、私は明日も明後日もニコちゃんマークを描いて贈る。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
