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海人はヒヤシンスの花を一本一本並べ、それらを緑色の紐で束ねた後、和紙製の茶色とピンクの紙で包んだ。
「いつもありがとう」
「こっちのセリフ。いつも来てくれてありがとう。はいできた」
リボンをシュッと結んでブーケが完成。
「娘に見られてもうたな」
永瀬さんはニヤリと笑う。
ブーケは花代とは別途で料金が発生する。
だが海人はサービスと言い、ブーケとして無料で包んだ。
「店長には内緒。廉だけだから!大丈夫っしょ」
私は、いいよいいよ、と気軽に言い、笑い返した。
「俺があげたヒヤシンスちゃんと育ってる?」
「おん、綺麗に咲いとる。今が一番綺麗やな」
「よかった。廉が枯らさないか心配だったんだよ」
「俺?あ〜大丈夫やって。俺が何かやらかしても、あいつが枯らさんから。
そうや、この前水やりながら、海人くん元気かな。なんてボソボソ言うとった」
「ほんとに?」
「ほんと」
海人は目を輝かせた。
一方の私は、二人の中に踏み込めないまま。
それもそうだ。会話の中枢に何があるのか掴めていないのだから。
「永瀬さんってさ」
永瀬さんが店を出た後、海人に訊ねた。
「どういう人なの?」
質問が漠然とし過ぎたか。
海人は、意味が分かんない、と言いたげな顔をして「あのまんまだよ」と言った。
「会社ではね、優秀だし性格も良いし真面目だけど砕けるところは程よく砕けてて、皆が憧れてる。そんな人」
私の言葉に海人は、戯けたように笑った。
「廉が?」
「うん」
「まあ顔かっけえし頭も良いからそうなるのか」
海人は、でも、と続けた。
「俺が廉をかっこいいと思うのは、そんなものじゃないよ」
「え?」
「俺Aに、俺が憧れてる人のこと話したことあるよね?」
海人が憧れてる人…
確か海人と同じ大学の、
「私と同じ名前の人?」
「そう、それ」
海人は音大でピアノを選考している。
その彼が進路をピアノ一筋に絞って行こうと決めたきっかけの人。
私がまだ大学生のときだ。
珍しく一緒に店番をしているとき、彼がその人の話をしていたのは。
「Aさん。廉の元恋人」
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あゆまら(プロフ) - はじめまして!すごく綺麗な文で読んでいてすごく楽しいです!更新楽しみにしてます! (2018年6月19日 17時) (レス) id: 9ea9f7ec8d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エリ | 作成日時:2018年6月10日 21時