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「おーい。やま〜〜〜やまぎっちゃん」
ぼんやりしながら、ニヤニヤしたり頬を膨らませてみたり、どこか1点を睨んでみたり。
そうしていたら同期の長妻が、手のひらを左右に振って私の前に現れた。
「やまぎっちゃん回りすぎ」
眉を少し垂れ下げて長妻は言った。
「なにー?その呼び方!やまさんでしょお!やまさん!やまさんじゃないとやだからねえ!!」
長妻は笑いだした。おどけたような顔をして私を見て、「やまさんがこんなに飲んでんの初めてみた」と言った。
「やっぱ…今日はパーッとしたいよね!飲もう!!」
何を分かってそんなことが言えるんだ、長妻。
一瞬そう思ったが、私が置かれている現状を長妻にだけは話していたことを思い出した。
ジョッキをカチンと合わせたとき、今度は涼しく通った声が聞こえてきた。
「長妻〜!山岸強くないんやから。そんな飲ませんな」
永瀬廉。永瀬さん。
私と長妻より2つ上の先輩で、会社での成績はいつもトップ。持ち合わせた端正なつくりの顔と、モデルのように細く長いからだ。
それでいて、口を開けば出てくるのは馴染み深い関西弁。男も女も、社内の誰もが特別視する人。
「永瀬さん!すいませんすいません。
でもやまさん今日は…………記念日なんです」
それはないだろ、長妻。
彼なりに言葉を選んだつもりだろうが、記念日らしく振る舞わなきゃいけないじゃないか。
「おー。山岸彼氏おったもんな。なに記念日?」
何も知らない永瀬さん。
酔ってるんだから可笑しくなくても笑うことなんか簡単じゃないか。なのに、こういう時ばっかり……
どうしよう。笑えない。
「山岸!?」
「やまさん……」
ついに私は涙を出してしまった。
「長妻!どういうこと?」
「いや、その…」
長妻は永瀬さんに顔を近づけ、静かに話した。
「ふら…たんです。」
声は途切れ途切れ。
だが何を話しているのかはだいたい予測がつく。
「おーまーえー」
永瀬さんは長妻の脇腹にパンチをした。
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あゆまら(プロフ) - はじめまして!すごく綺麗な文で読んでいてすごく楽しいです!更新楽しみにしてます! (2018年6月19日 17時) (レス) id: 9ea9f7ec8d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エリ | 作成日時:2018年6月10日 21時