スパイダー【ars M.A】 (ページ6)

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トページ6

「あ...何かごめんなさい、ペラペラ喋っちゃって」

ハッと彼女が顔を上げたから、ちょっと近寄ってた俺はビックリして一歩下がる。

「じゃあ、私はこれで...」
「あ...うん」

ペコッと頭を下げた彼女が、俺に背中を向けた瞬間

「...ちょっと待って！」

いつ声掛けるの！今でしょ！なんて、ちょっと前の流行語を例のあの予備校教師が頭の中で俺に全力で言ってきた気がした。
いや、確実に言ってきた！修先生が！

振り返った彼女。
俺の言葉を待ってるのか、何も言わない。

「あの...ピアノ！」
「ピアノ？」
「俺も、弾きたい！弾けるかな、俺でも」

彼女が頷いてニッコリ笑う。
また胸がぎゅうってなる。
いちいちぎゅうってなるから、何か疲れて来る。

「教えて...欲しいな」
「えっ？」
「俺にピアノ、教えて下さい」
「え、でも...私はまだ先生じゃないから」
「ちびっ子には教えてるんだよね？」
「そうなんだけど...」

あ...困ってる。
完全に困った顔してる。
困らせたいわけじゃないのに、どうしよう。
とりあえず、怖がらせちゃダメだ。

「ごめんね、突然知らない奴にこんな事言われても困るよね！アハッ、忘れて！」

ごめんごめん！って手を合わせると、彼女は眉を下げて「ううん」って首を振った。

「ピアノ弾きたいって人には、是非弾いて欲しいなって思ってて...」
「うん」
「でも、家に入って貰う事になるからお母さんに相談しなきゃいけなくて」
「あ...そう、だよね」
「だから、即答は出来ないんだけど...」

あれ？
あれあれ？
これって...

「お母さんの許可が取れたらって事でも良い？」
「うん！もちろん！」
「あ、もしかしたら無理かもしれないんだけど...」
「うんうん、大丈夫！」

やったー！
声に出そうになるのを、ぐぅっと堪える。

「じゃあ、お母さんに訊いてみてから...あ、どうしよう」
「え？」
「連絡先知らないから、また家まで来て貰わなきゃ」
「じゃあ、連絡先...」

交換する？とか言って良いのかな...
軽いとか思われるのかな...それはやだ！それはマズイ！

「来週！また日曜日に来るよ！時間は...今日くらい」

俺が言うと、彼女は頷き「じゃあ、また来週」と頭を小さく下げた。

その帰り道、やっぱり連絡先交換した方が良かったかなぁ...なんて後悔したけど。
でも、それ以上にまた来週会えるんだ！って事にドキドキし過ぎて。

気のせいなんかじゃなかった。
やっぱり俺は、恋してた。

あの子が笑う度に、俺の心臓痛くなった。