スパイダー【ars M.A】 (ページ17)

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バページ17

カズくんが、ちょっと悪い顔をする。
昔からこの顔をした時は、あんまりイイコト考えてない。

「不戦敗でしょ...だって、先生は彼氏が居るんだもん」

うわー...改めて言葉にすると、更に落ち込む...。

「彼氏の為に可愛いライター持ち歩くんだよ？きっと尽くす系なんだよ、先生は」

彼氏がライター忘れたって言ったら、またー？もーしょーがないなー、なんて言ってあのライター出すんだよ。
可愛い笑顔で。
自分の手の中にある100円ライターを見て、舌打ちしたい気分。

「何で不戦敗なんだよ」
「え...？」
「お前は戦わずして死ぬ気か？」
「死ぬつもりは無いけど...」
「知ってる？人間は心変わりする動物なんだよ」

カズくんが、フフンと笑う。

「...どーゆーコト？」
「ま、別にまーくんが諦めようがどーしよーが、どっちでも良いけどさ」
「.....」
「オレなら、とりあえず戦ってみるけどね」
「戦う...誰と？」

先生の彼氏と？
そうだよね、それしか戦う対象って無いし。

「自分」

でもカズくんは、俺が思ってたのとは違う事を言った。

「自分？」
「自分の色んな感情と戦ってみる」
「感情...」
「敵は切ないのとかー、辛いのとかー、しんどいのとかー、そーゆーの全部」
「.....」
「恋敵は、別に敵じゃねぇよ」

これ、男の顔ってゆーの？
17年も一緒に居たのに、こんなカズくんの顔って初めて見た。

「ってゆーか煙草吸ったからって、大人になれる訳でも無いじゃん」
「うん...」
「そこがバカなんだよ、まーくんは」
「なんだとぉ！？」
「バカならバカらしく、何も考えずに突っ走ったら良いのに」

超バカバカ連発されてる。
カズくんの肩をグーパンチ。ソッコーでやり返される。
痛いな！お互い様だろ！と罵りあって、そんなやり取りにすぐ飽きる。

「まぁ、まーくんが平和的解決を望むならそれはそれで良いと思うけどね」
「平和的ねぇ...」

俺はどーしたいんだろう。
先生と彼氏を別れさせたいの？

「で？どーすんの？」
「え？」
「ノクターン。もう、やめる？」
「やめないけど」

カズくんが少し驚いた顔をする。

「人間は心変わりするんでしょ？」
「お」
「どーすんの？カズくんが煽るから、俺、ワルイオトコになっちゃいそうだよ？」

ンフフ、って笑ったカズくんが俺の肩を抱いた。

「力尽きたら笑い飛ばしてやるよ」
「そこは慰めてよ」
「そーゆー時は慰められる方が惨めなんだよ？」

俺は「じゃ、笑ってね」と、返事する。