Laundry【ars K.N】 (ページ8)

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心ページ8

「ちょっと、もっかい吹いてみ？」

そう言われて、唇を尖らせてヒューと息を吹く。

「そんなにタコみたいな口にしなくて良いのよ。こん位で、充分」

彼がお手本、って感じで唇を蝋燭を吹き消す時のようにすぼめた。

その顔のまま、チラっと視線を上げる。
上目遣い。

「......」
「何してんの、アナタも真似してみ？」
「あ...はい」

見惚れてました...とか言えやしない。

でもこのお兄さん、よく見たら本当に可愛い顔してるんだもん。

しかも、こないだと違って平日だから仕事帰りなのか着てるモノはダルダルなのに髪型はちゃんとセットされてる。
ダルダル部屋着に、バッチリヘアセット。
多分本人は無自覚なのに出来てる変なギャップが、萌えの要素になっちゃってますよ！

とか、考えてたら

お兄さんが「ヨイショ」って掛け声と共にテーブルに身を乗り出し、私に顔を近付けて

その距離、30センチ程。

「そうそう、そん位で音出るから」

うんうん、と頷くしか出来ない。

「で、舌を下の前歯の裏に軽く当ててー...ここね」

口を開いたお兄さんが、指を自分の口に軽く入れて説明してくれるんだけど...

無駄に色っぽいよ！！
全然頭に入って来ないよ！！

そのまま、お兄さんは口笛を吹くコツを教えてくれて

私は煩悩と戦いながら、ちょっとづつそのテクニックを覚えて

お兄さんの洗濯物が出来上がった頃には、ほんの少しだけど私の口から出る音は隙間風では無くなってた。

「ほら、吹けた」
「...ホントだ」
「後は、慣れだね」
「練習します！」
「ンハハッ！真面目！」

立ち上がったお兄さんが、自分の洗濯物をスーパーの袋に詰め込んでる後ろ姿を眺める。

猫背だな。

意外と男っぽい背中。

「あ。そうだ」

その背中が、振り返った。

「カズ」
「え？」
「口笛兄さん、じゃなくって。カズ」
「...カズ」
「そ。じゃあね」

あぁ、名前か！って気付いた時には、彼はもうランドリーから出て行ってて

慌てて私は追いかけて、その背中をパンパンと叩いた。

「ん？」
「Aです！」
「A？」
「名前、教えて貰ったのに自分は名乗らないのは失礼だから...」
「人のコトを勝手に『口笛兄さん』って呼んでる時点で、そこそこ失礼だぞ？」
「あ...」

ピタっと止まってしまった私を見て、お兄さん...もとい、カズはブフっと笑う。

「よろしく、A」
「...よろしく、カズ...？」
「何で疑問形」

また笑ったカズの丸い手と、握手した。