貝木泥舟に成り代わった人がエグゼイドの世界で医者になった ２ ページ20
「本当の願いごとは、他人にも言うもんじゃない。あの不二子不二雄先生も、漫画家になりたいという夢は、相方以外の誰にも言わなかったらしいですよ」
「……」
これは間違いなく嘘だ。それでもこの男は、鏡飛彩は顔を真っ青にして俯いていた
「鏡さん。私は金が好きです」
「なぜかと言えば、金がすべての代わりなるから。ありとあらゆるものの代用品になる、オールマイティーカードだから。物も買える、命も買える、人も買える、心も買える、幸せも買える、夢も買える、とても大切なもので、そしてその上で、かけがえのないものではないから、好きです」
「逆に言うと、私は、かけがえのないものが嫌いです。『これ』がなきゃ生きていけないとか、『あれ』だけが生きる理由だとか、『それ』こそは生まれた目的だとか、そういう希少価値に腹が立って仕方がない。百瀬小姫さんをまた失ったら、鏡さんの価値がなくなるんですか？やりたいことはそれだけですか？鏡さんの人生はそれだけだったんですか？」
「……違う」
俺はこの男の発言を無視して続ける。ただ続ける
「鏡さんにとって百瀬小姫さん以外はどうでもいいくだらないことでしたか？院長のことを敬愛していないんですか？鏡さんの中の優先順位で、百瀬小姫さん以外は全部ゴミでしたか？」
「……違う」
「どうしてですか？百瀬小姫さんだけが特別扱いになるんですか？あの人は鏡さんの分身か何かなんですか？」
「…お前なんかに何が分かるんだ！？」
ここまできてやっとこの男は激昂した。ここまでいけば上手くいくかもしれない
「ええ、そうです。何も知らない。重要なことは、何も知らない。鏡さんのことは鏡さんしか知らないんだから、だから、鏡さんのことは鏡さんしか大切にできない」
「そして鏡さんの夢も、鏡さんのしか叶えられない」
「……そんな、今更……」
どうやらこの男にはこの言葉が届いたらしい。ちょっと顔を上げてきた
「いいんですよ。人間なんだから。生きてるんだから。かけがえのない、かわりのないものなんかない」
あの娘はいまでもそうなのかわからないが、あの娘の話をしよう
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作者名：非辻 | 作成日時：2017年7月19日 0時
