Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ10)

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290.普通の時間。ページ10

その帰り道、スーパーに寄ってお鍋の材料と美味しいと噂になってたクッキーを買った。

ビールならあるよって雅紀くんが言うからお酒は買わず、クッキーのお供に紅茶を飲もうとお湯を注ぐだけで作れるミルクティーの粉末も買った。

生活感のある買い物は、どこか幸せな気分になる。
食材の入ったカゴを乗せたカートを雅紀くんが押してる、それだけで嬉しくなる。

「ねぇ、Aちゃん。豆腐は絹ごし？」
「絹ごしが良い」
「りょーかい」

雅紀くんが絹ごし豆腐をカートに入れて「美味しそう」って呟く。
まだ何の味付けもされてないお豆腐なのに。
そんな会話に口元が緩む。

買い物袋は二つになって、私も持とうとしたら二つとも雅紀くんが持ってくれた。

「ポッケに鍵あるから、開けて！」

駐車場で両手が塞がってる彼にお願いされ、「失礼しまーす」と雅紀くんのモッズコートのポケットに手を突っ込んで出てきた鍵で車のドアを開ける。

本当に何でもない時間。
特別な事は何もしてない、普通の時間。

雅紀くんの部屋に帰ってお鍋の準備。
「先に飲んでて良いよ」って言ったら、彼は嬉しそうに冷蔵庫から缶ビールを出した。

キッチンから、ソファに座ってTVを観てる雅紀くんの後頭部を見る。
雅紀くんのまぁるい後頭部は、好きなトコロ。

出来上がったお鍋を、ダイニングテーブルで並んで食べる。
〆の雑炊は、雅紀くんが作ってくれた。

ビールを3本飲んで良い気分になってる雅紀くんが、ヘラヘラと私に絡んでくる。
笑顔が蕩けてる。

「酔ったぁ」
「嘘だ。雅紀くん、お酒強いのに」
「でも顔熱いでしょ？」

私の手を取って、自分の頬に当てる。

「それは眠たいからだよ」
「眠くないし。寝たくないし」
「フフッ、子供みたいな事言ってる」

緩く目尻が下がった雅紀くんが、グッと顔を近付けて来た。

「誰が子供みたいだって？」

下唇にカプっと噛み付かれて、そのまんま唇を食べられるみたいなキス。

お酒の匂い。
でも、嫌じゃない。

彼の掌が、私の後頭部に回って引き寄せられる。
苦しくて少し抵抗すると、雅紀くんの口元から「フフッ」と小さな笑い声。

離れた口元から、息が漏れ出す。

「ねぇ、お風呂入ろ？」
「...え？」
「一緒に」
「...えっ！？」
「行こ行こ！」

立ち上がった雅紀くんが、ヒョイっと私を抱き上げた。

「女の子はお姫様抱っこされたら、何でも言う事聞いちゃうんでしょ？」

...悔しいけど、間違ってないかもしれない。