Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ8)

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288.タラレバ。ページ8

「いくら法的な約束じゃ無かったって言っても、俺にとってあの約束は足枷みたいに重くてなかなか前に進めなくて」
「......」
「それをやっと振り切って、今の俺は何の枷も無い状態で前を見てんの」

今度は伊織さんが唇を噛んだ。

「なのに、何であんな簡単に約束破って会いに来たの？」
「それは...！」
「あの約束に縛られてたのって俺だけ？」
「......」
「あん時の俺の我慢、何だったの」

伊織さんが「ごめんなさい...」と、小さな小さな声を零した。

「旦那への仕返しがしたいんなら、俺じゃ無理だから他を当たって？」
「......」
「もし本当にまだ俺を、って事ならごめんなさい。俺にはAちゃんが居るから、応えられない」
「......」
「伊織さん、俺はアナタとの事を別に後悔なんかしてないよ？」

顔を上げた彼女に、彼は続ける。

「だから、これからも後悔させないで欲しい」

雅紀くんが、私を見て「...ごめんね」と言う。
どうしたら良いのか分からず、ただ頷く。

「じゃあ、もう行くね」

彼が立ち上がったから、私も立ち上がって

席から離れようとした時

「...私...悔しくて...」

伊織さんが、ポツリ呟いた。

「......悔しくて...私はこんなに辛いのに...」

彼女が私を見て「この子は凄く幸せそうで...」と言って、また雅紀くんを見る。

「もしかしたら、そこは私の場所だったのにって思ったら...悔しくて...」
「『もしかしたら』なんて、無いよ」
「...でもあの時、見付かってなかったら私達...」
「タラレバ話には何の意味も無い。俺達は別れた、それ以上でもそれ以下でも無いよ」

何かを言おうとした伊織さんに

「俺を利用しないで」

雅紀くんは、静かに言った。

「...まー君、何か変わった...」
「過去は過去だよ。今とは違う。伊織さんが変わったって言うなら、変わったのかもしんないね」
「...もっと優しかったのに...」
「俺は優しくなんか無いよ、昔から」

もう何も言わなくなった伊織さんを残して、私達は喫茶店を出た。
時間にしたら、30分も居なかったと思う。

「やっぱイヤな想い、させちゃったよね」

パーキングまでの道、歩きながら話す。

「...ううん、私は大丈夫なんだけど...」

旦那さんへの仕返しだって事なら、何て事に巻き込んでくれてんだ！って話なんだけど彼女の本当の所なんて私には分からない。
もし、まだ雅紀くんを好きっていうのが本心なんだとしたら...

「酷い男だと思った？」

雅紀くんが、呟く。