Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ39)

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仕事で大失敗をした事があった。

お客様からはもちろん、上司からも先輩からもすげぇ怒られてコテンパンで、初めて悔し涙を流した日。

溜息さえつけなくて、握った両手を隠すようにして震えるオレの身体をキミは一晩中抱き締めてくれた。

何も言わず、ただただ、包み込んでくれた。

その内、オレは寝てしまって。
翌日、キミの腕の中で目を覚ましたら「おはよ」ってキミは笑った。

「ずっと起きてた...？」
「ちょっとは寝たから、大丈夫」
「そっか...」
「カズくん、しんどいコトあったら私に吐き出して良いんだからね？」

オレの髪を撫でるように話すキミ。
その指が気持ち良くて、また眠りそうになる。

「仕事の事は、自分でどうにかするから」
「......そっか」
「だって、言っても分かんないでしょ？」
「...そうだね」
「つまんない話だしね」
「...そう、か」

それが格好良いんだと思ってた。
泣き言なんて言わないのが格好良いって。
男らしいだなんて、思ってたんだ。

お客様の信頼を得る為に、やれる事は何でもやった。
出て来いと言われたら土日だって夜中だって、駆け付けた。
それで後日に何千万って使って貰えるなら、お安い御用だったんだ。

キミと一緒に居る時だって、何度も呼び出されて。
その度にオレは、当然のようにお客様を選んで。

「カズくん、行っちゃうの？」
「うん、このお客さんの言う事は聞いてて損が無いの。ごめんね、絶対に埋め合わせするから！」
「うん...」
「あ！こないだお客さんが連れってくれたお店が意外と安かったの！今度、御馳走するよ！」
「うん、楽しみにしてるね」

そう言ったキミの笑顔を、オレは単純に信じてた。

オレが背中を向けた瞬間に泣いてたなんて、想像できないよ。

まだガキだったオレには、女心なんて分かんなかった。
心理学やってたなんて、胸張ってたくせに。

『絶対に埋め合わせする』って、本当に埋め合わせできたのは何回だったかな。

きっと、一回か二回。

何度も何度もキミを裏切って
何度も何度も痛い想いをさせていたんだ。

キミの隠した寂しさに気付かずに、オレは勝手に『アイツ、良い奥さんになるだろうなぁ』なんてその気になって。

キミの心に降ってる雨が、オレにはちっとも見えてなくて。