Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ30)

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310.あの日の記憶。ページ30

空港に着いて、キャリーを預けてフライトの時間までスタンドカフェに入って約束通り雅紀くんにモーニングコーヒーを御馳走した。

お腹減ったーって彼は野菜サンドも選んで、私はレジ横にあったチョコチャンククッキーを選んだら「これは俺が」ってお会計してくれた。

雅紀くんのお父さんでもある相葉先生は、離島で診療所を開いてると聞いてた。
その島までは飛行機と、小さな船で向かう。
朝に出たのに到着したのは夕方でちょっと疲れたけど、相葉先生(あ、お父さんの方)の顔を見た瞬間に何か疲れとか緊張とか、全部吹き飛んだ。

「先生っ！！」
「Aちゃん！久し振りだねぇ」
「御無沙汰してます」
「すっかり大人の女性になって！綺麗になったね」
「そんなそんな！」

相葉先生は、やっぱり目尻に寄る皺が雅紀くんに似ていて

何だか、あの頃の甘酸っぱい気持ちなんかも思い出してキュンとした。

「あ、雅紀もいらっしゃい」
「俺をついでみたいに言ったね」
「だってAちゃんの付添だろ？」
「彼女を紹介する為に遊びに来たんですけど！」

お父さんの前では、ちょっと子供みたいな喋り方になる雅紀くんが可愛い。
そして『彼女を紹介』って言葉に、地味に攻撃されてる。

「凄い縁だね、まさかAちゃんが雅紀の彼女になるなんて想像もしてなかったよ」
「ねぇ、いつまでこんな所で立ち話なの？入っても良い？」
「あ！ごめんごめん！入って！」

玄関で話してるお父さんに向かって、反抗期の少年みたいな雅紀くん。可愛い。
とにかく可愛い。

「かーちゃん、俺来たよー」

二人分のキャリーを持った雅紀くんが家の中に入って行くから、私もその後をついて行く。

お母さんも病院に行くたびに顔を合わせてた人。
すぐに「Aちゃん！！」って走り寄って来てくれて、またキュンとした。

「ねぇ、かーちゃん！俺も居る！」
「あ、雅紀。いらっしゃい、元気そうね」
「...何かAちゃんの方がここの子みたいだね」
「あら！本当の娘になったら良いのよ？」

ねぇ？ってお母さんに言われて、アワアワしてしまう。

その日の夕食は、雅紀くんの好きな唐揚げが山盛り出て来て

「愛されてるね」ってコソっと言うと、「どうだろーねー」なんてまだちょっと反抗期チック。やっぱり可愛い。

私が持って来たバームクーヘンを食後に食べながら、昔話をしたりして。

その夜は外から虫の声が聴こえて来る部屋、二組敷かれたお布団に並んで眠った。