Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ34)

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279.マリーゴールド。ページ34

「...でも、智さんが花言葉とか気にしてるとは思えないから偶然なんじゃ...」

これまで彼と過ごして来た雰囲気だと、智さんはそんな乙女チックな人じゃない。
結構、読んでる本とか持ってる物は男っぽいし。

「俺だって花言葉なんて全然知らないよ？」

櫻井さんがちょっと大袈裟に首を振った。

「でも、マリーゴールドだけは知ってた。俺も、智くんも」
「...どうしてですか？」
「前にね、花屋さんがクライアントで店舗に二人で打ち合わせ行った時に、マリーゴールドが並んでて」
「はい」
「可愛い花だし花束にしたら女の子に喜ばれそうですねーなんて話をしたんだよ」

櫻井さんなら空気を和ませる為にそーゆー話もするだろうなと思う。

「そしたら、自宅に飾るなら華やかでオススメだけど大切な人に贈るのはやめておいた方が良いかもしれないって言われてね」
「.....」
「そこで花言葉の事を聞いた。他にも『絶望』とか、まぁキツイ言葉があって」
「...そうなんですか…」
「智くんが『嫉妬と変わらぬ愛情が同居してるってすげぇな』って」

ふいに、智さんの目を思い出した。
緩く下がった目尻が、優しくて、そして強い。

「その時に『略奪愛したい時に贈れば効果的なのかな？』なんて、あの人言ってたんだよ」
「.....」
「だからあの花束見た時に、うわーマジか…って思った。でもたまたまかなー？とも思ったんだよ、さすがに！」
「.....」
「だけどやっぱ、そーだったんだな」

あぁぁー！って、櫻井さんがソファの背もたれにグーンと背中を逸らすようにして両手を挙げる。

「あの...櫻井さん...」
「ん？」
「このままは良くないですよね…」
「このままってのは、Aもしかして振っても無い？」
「...はい」

そっか...と伸ばしてた身体を、今度は前に倒して折り畳む。
組んでた脚は広げられて、その脚を肘置きにしてるような形。

「それは、ちょっとよろしく無いな」
「...ですよね」
「あの人の事だから聞きたくないとか言いそうだけど、Aにその気が無いならちゃんと断ってやって？」

櫻井さんがその体勢のまま、私を見上げる。

「これは上司じゃなくて、智くんの友達としてのお願い」

その目が、優しく細められた。

「あの人に勝算は無いだろ？」
「.....」
「Aには雅紀が居るんだから」
「...はい」
「だったら尚更」

私から目を逸らさずに、櫻井さんは

「宙ぶらりんは、残酷だ」

少し、痛みを含んだ声でそう言った。