Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ33)

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278.引っ掛かり。←1.4 ページ33

何も言わずに櫻井さんを見ていたら、彼がフッと笑った。

「...ってゆー聞き方は意地悪だな」
「え...？」
「何かあったのは、知ってるから。俺」
「...えっと...」

立ち上がった櫻井さんが、私の座ってるソファの斜め前にある一人掛けソファに座る。

「珍しいのよ、智くんが自分からアポまで取って打ち合わせ行くとか」

彼が長い脚を組んで、話し始めた。

「まぁ仕事熱心なのは有難いなーと思ったんだけど、やっぱ変なのね。長年付き合ってるから不自然でさぁ」
「...はい」
「訊いてみたの。何かありましたかー？つって」
「.....」
「そしたら、智くんいきなり『ごめん！』って」

アハ、と櫻井さんが笑う。

「社内恋愛禁止だっけ？って言うからさ」

何か可笑しそうに、ずっとクスクス笑ってる。

「別に禁止はしてないけど、例えば破局だとか告白して振られたとか、上手くいかなかった時に仕事に支障出ない？って言ったわけ」
「...はい」
「したら、『告白しちゃった…』って」

櫻井さんが、チラッと上目遣いに私を見た。

「おれは良いんだけど、相手が気まずいかもしんないって」
「.....」
「だから、その相手は同じ部屋で働いてますか？って訊いたら」

少し口をへの字にして「答えたくありませんって笑ってたよ」って、小さく笑う。

「A」
「...はい」
「俺はまさか、智くん恋愛問題に逆パターンがあるとは思ってなかったわ」
「.....」
「参ったね」
「...ごめんなさい」

謝らないの！と、櫻井さんが大きく息を吐き出しながら言った。

「別にAは何も悪い事してないでしょ」
「.....」
「それに俺、何となくそんな気はしてたんだよなー」
「え...？」
「色々と引っ掛かるトコはあったんだけど、決定打は花束」

花束...？

...あ、花火の日の...？

「あの花束、マリーゴールドだったでしょ？」
「あ...はい、そうでしたね」

確かオレンジや黄色の、丸くて可愛らしいマリーゴールドの花束だった。

「それを、智くんはAに似合うって言ったんだよ」
「.....」
「あれは『花が似合う』ってのはそんな問題無くて、『マリーゴールドが似合う』ってのがね」
「...マリーゴールドが？」
「花言葉、知ってる？」

花言葉なんて、全然検討もつかなくて首を振る。

「嫉妬」

櫻井さんが、ポツリと言った。

「もしくは、『変わらぬ愛情』」

「あの時、Aは雅紀ともう付き合ってたからね」って櫻井さんはハァと溜息を吐き出した。