Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ26)

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271.対面。ページ26

モッズコートのたっぷりとしたフードが、雅紀くんの口元を隠してる。

少し強い風が吹き右から分けてる彼の前髪が乱れ、その分け目が無くなった。

最初に動いたのは、雅紀くんだった。

植え込みから立ち上がり、私達の方へ近付いて来る。
私を見て、目をキュっと細める。やっと見えた口角が、ゆるっと上がった。

「お疲れ様、Aちゃん」
「...お疲れ様」
「おーちゃんもお疲れ様」

雅紀くんに言われた智さんは、「お疲れ様、相葉ちゃん」と微笑む。

「雅紀くん、...どうしたの？」

会社の前で待ってるなんて、これまで一度も無かった。
なのに何でこのタイミングで、ここに来たのか。

それを『分からない』と言える程、私は子供じゃ無い。

「連絡、取れなかったから」

雅紀くんの言葉に、やっぱり...と思う。

「LINE既読にもなんないし、電話も出ないし。心配になって」
「......」
「もしかして風邪でもひいて会社休んでんのかな？って翔ちゃんにLINEしたら『顔色は悪かったけど来てる』って返事来たから、無理してんじゃないかなーと思って」

いつもの優しい表情。

「だから迎えに来たの。車、そこのパーキングにあるし帰ろ？」
「......うん、えっと...」

どうしよう...スマホ...

正直に言った方が良いのは分かってるけど、どう言えば良いのか分からない。
どう言ったって誤解されそうだし、そうなると智さんにも迷惑を掛けてしまうかもしれない。

だけど、言わなきゃスマホが無い状況になって余計に怪しまれしまう。

だとしても、どこから話せば良い？

「Aちゃん？」
「...あの、雅紀くん。実は...あの...」

話し出したは良いけど、やっぱり何から話せば良いのか分からなくなってた私に被せるように智さんが

「ごめん、相葉ちゃん」

微笑んだまま、話し始めた。

「今日はおれが先約だから」
「え？」

智さんの言葉に、雅紀くんの眉間に皺が浅く刻まれる。

「ってゆーか、おれの約束を優先してくんなきゃ相葉ちゃんもAちゃんと連絡取れないよ？」
「.....どーゆー事？」

雅紀くんの声が、変わった。

「だってAちゃんのスマホ、おれんちにある」
「えっ...智さん！？」

声も表情すら少しも変えず言った智さんを慌てて止めようとしたけど、それより先に雅紀くんが口を開く。

「...それってAちゃんが、おーちゃんちに行ったって事？」
「うん。そうだけど？」

智さんの表情は、やっぱり変わらない。