Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ1)

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もしも。

もしも、数日前に戻る事が出来たなら。

私は必死になって、週末は二人で家に居て！と何も知らない私と雅紀くんに頼んだだろう。

無理なのは分かってる。
だってその週末は、11月のミヤビナイト。

私が行かないって事はあっても、雅紀くんが行かないのはありえない。

雅紀くんはきっと、未来から来たとか言ってる不気味な私にだって「ごめんね、俺は行かなきゃ」って優しく笑うだろう。

それでも、きっと、土下座でもして行かせない。
泣き喚いてでも、行かせたくない。

...どっちにしたって、過去に戻るなんて無理な話なんだけど。

・

11月下旬。

先月の地味な仮装大集合だったミヤビンナイトとは違って、いつもと同じミヤビナイト。
増田くんは彼にしか似合わないんじゃない？と思う個性的な服で迎えてくれるし、潤さんもシックな装いで普通のテンションで微笑んでくれた。

「雅紀、何か疲れてるみたい。ベースで寝てるんじゃないかな」
「あー...最近忙しかったみたいだから」

年末が近付いて来て、今年中に虫歯を治してしまいたいって患者さんがたくさん来るらしく彼はしょっちゅう時間外に治療をしてる。
断ったら良いのに...と思うけど、それが出来ないのが雅紀くんの良い所でもあるから難しい。

華やかなフロアを抜けて、ベースの階段を上がる。
女の子達の視線は、少しづつ慣れて来た。

私が、ベースに上がれるあの数人の中の誰かの彼女なんだろうって噂になってるって、増田くんが教えてくれた。
一番有力は二宮さんだって話らしい。面白い。

ベースでは雅紀くんが大の字になって寝てる。
そんな寝方したら寝癖ついちゃうのに...って思ったら、ちゃぶ台の上にハットが置いてあった。

これ被るならいくらでも寝癖ついて大丈夫だねーなんて思いながら、彼の横に腰を下ろす。

周りは結構うるさいのに、雅紀くんは気持ち良さそうにスースーと寝息を立ててる。
子供みたい。
頭をソっと撫でると、眉間に皺。
やっぱり寝てる時はちょっと不機嫌。

「うぅ...」
「あ、ごめん...」

起きた？
ってゆーか、起こしちゃった？

「うぅぅー...」
「寝てて、寝てて！寝てて良いから！」

ゴロンと俯せになって唸ってる雅紀くんの背中をポンポンと叩く。
赤ちゃんを寝かせつける時みたいに、ポンポン。

「ねーんねんころーりーよーぉ」
「...うるさいー...」

唸った雅紀くんが背中に置いてる私の手を掴んで、自分の方へとグイっと引っ張った。