Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ14)

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259.何でも。ページ14

部屋に戻ると、智さんは靴を脱ぎソファの上に両脚を上げて体育座りしながらパンを食べてた。

子供みたい。

「お待たせしました」
「んー、あーと」

口の中パンいっぱいで、ちゃんと喋れてない。

智さんの前にカップを置いて、私も自分に淹れたコーヒーを座って飲む。

苦い。
さっきまでジャムで甘くなってた口の中が、リセットされる。

智さんが、ズズズーとコーヒーを啜った。

「あの...智さん」
「ん？」
「もしかしたら全然興味の無いお話かもしれないんですけど...」
「うん、なぁに？」

あー...とは言え、何て言えば良いんだろう...

「相葉ちゃんのコト？」

考えあぐねてると、智さんがポツリと言った。

「あ...はい、そうなんですけど...」
「あの後、また泣かされた？」
「いえ...、大丈夫です」
「そう。良かった」

優しく微笑み、「良かった」ってもう一度。

「ありがとうございます」
「何で？」
「もしかして心配して下さってたのかなぁ...って、あ、思い上がってますね！ごめんなさい！」
「心配してたよ？」
「.....え」

智さんが、ローテーブルにカップを置く。

「心配してた」

そんな声が出るんだ...と思うような、声だった。

「でもAちゃんが笑えるなら、良かったよ」

だけど、すぐにいつもの笑顔。

「笑ってる方が可愛いから」
「ちょ...もう、それやめて下さい！」
「でも泣いてる顔も可愛いの」
「ホントにからかうのやめて下さい！」
「ふふっ」

まったくもう...。
困った人。

智さんは口を大きく開けて、残りのパンをその中に突っ込んだ。

私も食べ掛けのパンを食べる。
イチゴジャム、美味しい。

「Aちゃんが笑ってくれるなら、おれは何でもしてあげる」

コーヒーの香りが、部屋に漂う。

「Aちゃんの泣き顔は可愛いけど」
「.....」
「泣いてんの見るのは嫌だから」
「.....」

窓の向こうの空は、冬の青空。
白っぽい。

「泣かされたって知った時も、おれは何でもしてあげる」

智さんが立ち上がって、パソコンデスクへ歩いて行き

「相葉ちゃんと仲良くね？」

そう言って笑うと、ストンと椅子に座った。

このまんま、もう何も変わらないと思ってた。

私は雅紀くんを好きだし、雅紀くんもちゃんと側に居てくれてる。

だから大丈夫。
何も変わらない。

・

「.....え...？」

その日、仕事から地元へ帰ってきた私は

駅の改札を出た瞬間

その場から、動けなくなった。