Clear‐Crane‐Crime 7th【ars M.A】 (ページ9)

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219.ギリギリアウト。ページ9

二宮さんが帰ってから暫くして、ふと気付いた。

「...雅紀くん、終電！」

そうだ、さっき二宮さんも終電がって言ってたのに！

腕時計を見ようとしたけど、浴衣だから着けてなくて思わずキョロキョロしてしまう。

「スマホ見たら良いのに」

隣でクスっと笑った雅紀くんが、私にスマホの液晶を見せた。

「ヤバイッ！電車、無くなっちゃうよ！帰らなきゃ！」

その時間はもう、終電ギリギリってゆーかもしかするとアウトかもしれない時間で急に焦る。
なのに雅紀くんは別に焦った様子も無い。

トロンとした目で小首を傾げて私を見てる。

酔ってる...

助けを求めるように潤さんを見ると、困ったように「雅紀ー、帰れなくなるよ？」って雅紀くんに声を掛けてくれた。

「帰れなくても、良いんじゃない？」

ニっと笑った雅紀くんが「チェックお願いねー」って増田くんに言って、お会計を終わらせてしまう。

「帰れなくても...って？」
「んー？フフッ」

ちゃんと答えてくれない。
そんなに酔ってる？

「じゃあね、潤くん」
「雅紀、大丈夫か？」
「ダイジョブ、ダイジョブ」

潤さんにピースして、そのピースを私にも見せてアハッて笑う。

つられてアハっと笑って、いやいやいや終電無くなってるよ！って脳内で慌てる。

MIYABIを出ると、雅紀くんは私の手を取って大通りの方へと歩き始めた。

「ねぇ、終電...」
「もう無くなったでしょ？」
「うん...」

大通りに出ると、彼は流れる車の光に向かって手を挙げた。

「あ...タクシー？」

私には移動にタクシーを使うって習慣が無いから思い付かなかったけど、そうか。
タクシーなら帰れるのか。
一気にホっとする。
そして、すぐに「ここから家までいくらかかんの！？」って思ってしまう貧乏脳。悲しい。

空車のタクシーは五分くらいで捕まった。
私を奥に座らせて、雅紀くんが運転手さんに告げたのは家の住所では無かった。

「雅紀くん、あの...」
「うちに帰らなくっても、ね？」

着いたのは、外資系のホテル。

雅紀くんは、私の手を引いてその中に入って行き真っ直ぐフロントへ。

「相葉様、おかえりなさいませ」
「ありがとー」

鍵を受け取った彼が「行こうか」ってまた歩き出す。

「えっとー...」
「もうチェックイン済ませてたから」
「あ、うん...」

気になったのはそこじゃないけど...でも

「お泊りしよーよ」

そんな風に言われたら、ただ嬉しくて

彼の浴衣の袖をギュっと握った。