Clear‐Crane‐Crime 7th【ars M.A】 (ページ34)

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244.交換。ページ34

寝室から出て来た雅紀くんの手には、彼が寝る前や部屋で寛いでる時に羽織ってるパーカー。
紺色で、モコモコしてて、雅紀くんによく似合ってるやつ。

「これ、Aちゃんにあげる」
「...えっ！？」
「眼鏡くれたから、お返し」
「いや、これ、私の眼鏡みたいに安物じゃないし！悪いよ、ダメダメ！」

だってコレ、ジェラピよ。
部屋着はもっぱらファストファッションの私の中では、こんなの高級部屋着よ。

「アハハ、すっげぇ着倒してるよ？」
「うん、よく着てるよね」
「だから中古だし」
「中古って...」

雅紀くんが着てた中古なんて、私にとっては付加価値つきまくってるんだけど！
新品よりも価値アリなんだけど！

「それにAちゃん、似合ってたし」
「え...？」
「こないだ寒いって言ってたから貸してあげたでしょ？そん時、似合ってた」
「.....」

...嬉しい...。
似合うって言われた事じゃなくて、日常のほんの些細な事を覚えてくれてる事が嬉しい。

「良いの...？」
「良いよ」

はい、ってパーカーを渡される。
思わず、それをギュウっと抱き締めてしまう。

「ありがとう。大切にします」
「大袈裟！」

ダハハッて楽しそうな笑い方。

パーカーからは雅紀くんの匂い。

「うちに泊まった時のAちゃん用にしとこっか」
「えっ！？」
「え？」
「あっ...うちに持って帰っても...良い？」

雅紀くんがキョトンとしてるから、慌てて「家で着てる部屋着がくたびれて来ちゃって！」って付け足す。
あ...この言い方では『くたびれた部屋着を着てたのか』って思われるんじゃない！？

でも、どうしても持って帰りたい。
だって自分ちでも雅紀くんの匂いの服に包まれる事が出来るなんて、どんなに幸せ？

これさえあれば、会えない日だって寂しくない気がする。

「うん、良いよ。俺だと思って可愛がってあげてね」
「あ...あは、可愛がります...」

...何か私の魂胆、バレてる気がする。

昨日の疲れが残ってそうな雅紀くんに、お腹に優しそうな鍋焼きうどんを作って

向かい合って食べて

まだ眠たそうな彼とラグの上でゴロゴロしてる内に、二人とも寝てしまって

起きたらもう、夕方だった。

夜ご飯どっか食べに行こうって、街に出てお酒を飲む。
ほろ酔いの雅紀くんが「好きだよー」って笑ってくれる。

今、誰かに『あなたは幸せですか？』と訊かれたら

食い気味で『とっても幸せです』って答える事が出来る。

何の迷いも無く、そう言える自信があるんだ。