Clear‐Crane‐Crime 7th【ars M.A】 (ページ1)

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211.テラス。ページ1

「これ、あっち持ってかなきゃね」

智さんが花瓶を持って、クルリと背中を向けた。

歩き出した智さんの細い首筋。
軽く刈り上げられてる襟足が、余計に色っぽく感じてしまう。

私もその後ろをついてリビングの方へ戻ると、そこには誰も居なくて全員テラスに出ていた。

「おれらも早く行かなきゃ、翔くんうるさいから」
「フフッ、早く行きましょ！」

コトンと花瓶をダイニングテーブルに置いた智さんが、私の背中にそっと手を添える。

え？と思う暇も無く、彼は私の背中を軽く押しながらベランダの方へと歩く。

その手はテラスに出る直前に離れて、「お待たせぇ」って智さんは籐で出来たローテーブルに並べられてる飲み物の中からシャンパングラスを選んだ。

私も倣って、同じ物を選ぶ。

「みんな揃ったかな？」

櫻井さんがキョロキョロしてから、ニコっと笑った。

「では。えー、今年も皆元気にこの日を迎えられて嬉しいです。いつもありがとう、楽しんで行ってね。カンパーイ！」

乾杯の音頭と共に、グラスのぶつかる音が響く。

私も隣に居る女の子達とグラスを合わせる。
櫻井さんは一人一人と乾杯して歩いてる。

「A、カンパーイ」
「はい！櫻井さん、乾杯！」

私とも乾杯してくれた社長さんは、もしかしたら誰よりも楽しそう。

各々、料理を食べたりお酒を飲んだり、喋ったり。
まだ空は暗くなってなくて、花火の打ち上げまでは一時間くらいあるらしい。

テーブルと同じ籐のアジアンテイストのソファに腰掛ける。
これ...カフェとかでもよく見るけど、雨降った時どうするんだろう...。

「お邪魔しまーす」

座面を撫でながら考えてた私の隣に、櫻井さんがストンと座った。

「飲み物、足りてる？」
「はい。大丈夫です」

「そ」って微笑む。

「櫻井さん」
「ん？」
「この家具、雨降ったらどうするんですか？」
「あー、これちゃんと撥水加工してあんの」

へぇ、そうなんだ。

「専用の洗剤なんかもあるしね」
「でもお手入れ大変そうですね」
「まぁ、格好付けた部屋に住みたいんなら、それ位しなきゃいけないよね」

ウハハって大笑いする櫻井さん。
全然イヤミの無い人だなと、付き合えば付き合う程思う。

「雨予報が出てたらブルーシート掛けたりもするよ」
「何か、一人でそれをやってる櫻井さん想像したら面白いですね」
「たまに突風と戦ってるから」

ブルーシートを持って突風と戦う櫻井さん...。
それ、めっちゃ可愛い。