Clear‐Crane‐Crime 7th【ars M.A】 (ページ16)

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226.ある秋の日。ページ16

刷毛で白いペンキを塗ったような雲が浮かぶ空。

通勤時は上着が一枚無いと、肌寒くなって来た。

「経理の花岡さんが、温泉行ってたんですって！お饅頭、お土産に貰いましたよ！」
「温泉饅頭ぅ」

窓辺にしゃがんで秋空を見上げてた智さんは相変わらず、ゆるっと笑う。

「食べますか？」
「うん、食べたい」
「じゃあ、お茶淹れて来ますね」
「ありがと」

給湯コーナーでお茶を淹れながらフロアに目をやると、奥のガラス張りになった会議室で櫻井さんがスタッフ数人と話し合ってる。
社長さん自ら、本当によく働く。

「お待たせしました」

部屋に戻ると、ソファに座った智さんがお饅頭を手の中に包み込んでる。

「そんなコトしてたらお饅頭あったかくなっちゃいますよ？」
「あったかくしてるんだよ？」

んふふーと笑った智さんが手の中から出したお饅頭の包み紙を剥いて、一口食べた。

「...全然あったかくなってない...」
「でしょうね」
「レンジ欲しいな...翔くんに言ってみよ、そうしよ！」

うんうん頷いてる智さんにお茶の入った湯呑みを渡すと、目を瞑りズズズーと啜って飲む。
ここは縁側か？

「あ、もうそろそろカキフライの季節だよね？」
「あぁ！そうですね！今度、うまうま亭でいつから始まるか訊いてみましょ」
「愛しのカキフライちゃん」
「フフッ」

コンコンとノックの音。
同時に「智くん、俺。入るよー」と、ドアが開いて櫻井さんが入って来た。

「あ、ごめん。休憩中だった？饅頭食ってたの？」
「うまいよ、翔くんも食べたら？」
「さっき食った」
「そっか」

ソファに座った櫻井さんが「休憩もう良い？」と訊くと、智さんはお茶で口の中の物を全部流し込んで「うん」と頷いた。

さっきまでのゆるゆるの空気が、一気にピンと張りつめる。

この緩急が、すごく心地良い。

二人が仕事の話をしてる間に、私は中身が減っていたクッキージャーにキャラメルを補充した。

今日コンビニで見付けたカボチャ味のキャラメルは、ハロウィン仕様のパッケージ。

いつの間にか横に立ってた智さんが、私の手の中から一個取って「ハロウィン」って言いながら口の中に放り込んだ。

「ちょっとー、智くん。集中してよ」
「だって身体が糖分を欲しがったんだもん」
「さっき饅頭食ってたろ」
「あ、カボチャうま」

ほっぺたをキュっと手で押さえて、ふにゃっと笑う。

そんな智さんを見て、櫻井さんも呆れたようにアハって笑う。