Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ24)

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129.木漏れ日。ページ24

「あのっ...智さん！」

伸びてる後姿に声を掛けると、「ん？」って首だけで振り返る。

「申し訳ありませんでした！...完全に私の確認不足です。なのに...」

智さんは、自分のミスだと先方に謝罪した。
責任を自身が負ってくれた。

「本当に申し訳ありません！ご迷惑をお掛けしてしまいました。私のせいで...」
「ねぇ、Aちゃん。お昼ご飯食べ行こっか」
「......え？」
「この近くにさぁ、すっごいオシャレなレストランあんの」
「......」
「いっつもうまうま亭だから、たまにはオシャンティランチでもしよぉよ」

あ！別にうまうま亭をディスった訳じゃ無いんだけど！って、智さんはケラケラ笑う。

「智さん...」
「逆じゃなくって良かったよね」
「逆...？」
「明日に変更じゃなくって昨日に変更だったなら大事件だったでしょ？」

想像しただけで、背筋が冷えた。

「でも実際は明日だから」
「......」
「だいじょーぶだよ。ラッキーだったね！とか言ったら不謹慎かな？でもやっぱラッキー」

笑った智さんの口元に、尖った犬歯。

「ちょっと歩くんだけど大丈夫？」
「あ...はい...」
「一駅くらい歩くんだけど。あ、近くじゃ無いじゃんって思った？ふふっ、今おれも自分で思った」

暑くなってきたなぁ、って呟きながら智さんがジャケットを脱ぐ。

デニムシャツの背中の一部がほんの少し、汗で色が変わってる。

「智さん、これ...」

隣に並んで、ハンカチを渡すと「ん？」って顔。

「汗、かいてらっしゃるから」
「アハッ、ありがと」

私のハンカチを受け取り、片手で前髪を上げてオデコに滲んだ汗を拭く。

新緑が目に鮮やかな街路樹の並ぶ、オフィス街の遊歩道。

大都会の中の木漏れ日は、少しだけの非日常を見せてくれる気がする。

「ジャケット、お持ちします」

ハンカチを返して貰う時にそう言うと、智さんは微笑み首を振った。

「女の子に自分の荷物持たせたくないよ」
「でも...」
「召使いみたいじゃん。Aちゃんは、パートナーなのに」
「...私、全然智さんのお役に立ててません...」

自分のやらかした事に、また溜息が零れる。

「役に立とうなんて思わなくって良いんだよ？」
「...え...？」
「おれと一緒に頑張ってくれたらそれで良いの」
「......」
「Aちゃんは充分、頑張ってくれてる」

張り詰めてた物が、プツンと切れて

少しだけ溢れた涙を智さんにバレないように

俯き、指で拭った。