アン・コワン・アンソレイエ【 虹 】３

＃１０７ ページ9

黄『 これが俺の過去 』



そう言った淳太くんは短く笑って、形容し難い顔をこちらに向けた。


悲しそうな、悔しそうな、寂しそうな。……淳太くんは今、なにを考えてるの？






「 ……ごめんね、今は淳太くんの気持ちがわからない 」


黄『 …… 』


「 ……悲しい？悔しい？寂しい？」




私の言葉に緩く口角を上げた淳太くんは力なく首を横に振って 全部 って小さな声で言った。






「 ……そっか。…もう大丈夫だよ、これから先はきっと、幸せなことしか起こらないから 」


黄『 ……なにを根拠に言うてんの 笑 』


「 ……私の勘？」



首を傾げると なんやそれ って淳太くんは、くはっと笑う。



「 ほんとだよ？……私も色々あったけど、それでも、今は幸せだもん 」


黄『 …なんでそうやって言い切れるん？』



そう聞いてきた淳太くんに、私はこつりと身体をぶつけた。


見上げると、不思議そうな顔をした淳太くんの大きな目と目が合う。





「 ……あのシェアハウスに、みんなに、出会えたから 」


私の言葉に面食らったように、淳太くんは目を見開く。




母さんが、適当に選んだだけのシェアハウスかもしれない。


だけどそのシェアハウスには、素敵な人ばかりがいた。




優しくて、周りを見てて、見えない気遣いができて、……そういう人達ばっかり。





「 …淳太くんが最初に声をかけてくれなかったら、私はあのシェアハウスに馴染めなかったと思うの 」


淳太くんのおじいさんのダジャレに気づいてくれたと興奮してた淳太くん、あのシェアハウスに来て初めて私に おかえり と言ってくれた淳太くん。




他にもたくさん、淳太くんの姿が思い浮かぶ。


淳太くんがシェアハウスのメンバーに信頼されているからこそ、私はあの輪に加われた。





伝えきれないほどのでっかい感謝の思いを、私は淳太くんに持ってるんだよ。






「 今私があのシェアハウスで笑えてるのは、淳太くんが優しく迎え入れてくれたからなの。…………笑顔にしたいのは、好きな人だけ？」


黄『 ………………………………びっくりやわ、Aには敵わんな 』




ふははっと淳太くんが笑うから。



私も、つられたように笑顔が零れる。…………ほら、淳太くんはこうやって人のことを笑顔にできてるんだよ。

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