アン・コワン・アンソレイエ【 虹 】３

＃１２３ ページ25

「 …照史くんは、どうしたの…？」



私の問いに、照史くんは力なく笑った。


聞いちゃいけないことなのかもしれないけど、照史くんが吐き出したいなら、聞かなきゃいけないと思った。




……そんな私の変な責任感を、照史くんは鬱陶しく思ったりしないかな。






橙『 もうやり直すことなんかできひんって、別れた 』



別の男と子供を作る人なんて、別れた方が正解なのに。


その決断をするまでに、照史くんはきっとたくさん悩んだんだろうな。……今の悲しそうな顔を見れば、それが痛いほど伝わってきた。






橙『 高１の俺にできることなんかないと思ったし、それに、…あいつに同情したりなんてできひんかった 』


「 ……同情だけでそばにはいたくなかった、ってこと…？」


橙『 そういうことかな。…ほんまに好きやって思えるやつと一緒におりたいって、その頃から思い始めた 』






まあ、そんなやつまだ見つかってないんやけどな って照史くんは曖昧に笑う。



傷つきたくないから、好きになった人に失望したくないから、＿＿＿照史くんは無意識にそういう人を探しちゃってるのかな。






橙『 あいつは結局、子供を堕ろして大学も辞めて、今はバイトしながら生活してるって、知り合いから聞いた 』


「 …そっか…… 」


橙『 堕ろすぐらいやったら孕むなやってあいつにも腹立ったし、…好きやった女を守れへんかった自分も情けなかった 』


「 …… 」


橙『 あいつ、堕ろした後に１回俺に電話してきてさ。……あの子は私なんかのところに来たからこの世に産まれることすらさせてやれへんかったって、泣いて自分のこと責めてたんや 』





照史くんも、彼女も、自分なりに、自分達なりに、傷ついて、悩んでた。


…なんで神様は、残酷なことしかしてくれないんだろう。






橙『 俺、泣いてるあいつになんの言葉もかけてあげられへんくて。…ああやっぱり、俺がこいつを幸せにしてやることなんて出会った時から無理やったんやって、わかってん 』


「 …… 」


橙『 ……他の人から聞いたら、逃げてるだけやって思われるかもしれんけどな 』




俯く前に見えた照史くんの目は、潤んでいた。

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