アン・コワン・アンソレイエ【 虹 】２

＃５８ ページ9

緑『 でも、すごいな 』


鍋の中をかき混ぜながら、神ちゃんがしみじみしたように呟く。





「 なにが？」


緑『 Aが 』


「 え、私が？」




どこがすごいのか全然わからなくてあほみたいな声を出してしまった私を笑い、神ちゃんは頷く。




緑『 しげは過去のせいで頑なに女の子に心開こうとせへえんかったからさ 』


「 あー、……大ちゃんね、過去のことも話してくれたよ 」



そう言うと それもまたすごいな！って神ちゃんは笑う。




緑『 あのしげが自分から過去のこと話すなんて、あいつよっぽどAを信頼して心開いてるんやろうな 』


「 ………そうだと良いけど 」




大ちゃんは過去を私に話してくれたのに、……私はなんにも伝えられていない。



こんなの、信頼してくれてる大ちゃんに失礼じゃん。





「 …… 」


緑『 A？大丈夫？』



私が黙り込んでしまったからか、神ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。






「 あ、……うん！全然大丈夫！」


緑『 ほんならええけど 』


「 うん、ごめんね 」


緑『 ……しげはさ、相手を傷つけるのも自分が傷つくのも嫌で、今まで女の子のこと避けてきてん 』


「 ……うん 」



短く頷いた私の方に、神ちゃんは身体ごと向けてきた。…急なことと、神ちゃんの真剣な顔に少し戸惑う。





緑『 しげがまた辛い思いするんは、嫌やねん。せやからA、自分を傷つけるようなことも、しげが傷つくことも、せんでな 』


「 …… 」


緑『 友達としてのお願い、……とか言うとくわ 』




恥ずかしくなったのか、ピアスだらけの耳を真っ赤にして神ちゃんは目を逸らした。



そんな横顔を見上げながら、私は わかった と頷いた。







「 ……私にそんなこと、できるかわかんないけど 」



笑ってみせると できるで って神ちゃんは再びこちらを見てきた。





緑『 しげの心開けたなら、大丈夫やって 』


「 …神ちゃん…… 」



神ちゃんは私に身体をこつんとぶつけると、眉を下げて私を見た。




緑『 いつか、他のみんなの過去も聞いたって。……あと、俺の過去も 』


「 ……うん… 」


緑『 それと、Aの過去のこともな 』




神ちゃんの言葉に、私はだいぶ面食らってしまった。




みんながそれぞれ過去を抱えているように、私にも抱えているものがあるんだ。





いつか、みんなの過去を受け入れて、私の過去を聞いてもらえる日が来ると良いなあ。

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