アン・コワン・アンソレイエ【 虹 】２

＃８４ ページ35

「 …そっか、望も確か料理できるんだよね 」



慣れた手つきで野菜を切っていく望を見つめながら思い出したのは、神ちゃんの言葉。



私が来る前は、自分だけで作ったり照史くんや望に手伝ってもらってたって神ちゃんは言ってたから、望もそれなりに料理はできるんだろう。





桃『 俺、結構料理男子やからな 』


そんなことを得意気な顔して言う望が可愛くて、少し笑ってしまう。







「 ……望 」



フライパンの中の目玉焼きの焼け具合を見ながら名前を呼ぶと、野菜を切る手を止めた望が ん？と首を傾げながらこちらを見てきた。



まだちゃんと焼けてないことを確認してフタを閉めた私は、望を見上げた。






「 …あんまり、人を疑いすぎなくて大丈夫なんだからね 」


桃『 ……え？』


「 …ほら、望が話してくれた子みたいな女の子って、そんなにいないし。周り見てみたら、意外と良い人ばっかりかもよ…？」


桃『 …… 』


「 望を大事にしようって思ってくれる人達は、案外たくさんいると思うよ 」


桃『 …… 』




望がなにも言葉を発さないから、私ばかりが慌ててべらべらとしゃべってしまう。



「 ほら、望はイケメンなんだから！」



できてしまった沈黙を誤魔化すように望の肩をぺしっと叩くと、……その手を急に、掴まれた。



「 ぅわっ… 」


びっくりして思わず手を引っ込めようとすると、そうはさせまいというように掴む手に力を入れる望。



私より背が高いくせに上目遣いで私を見てくる望は、なんだかあざとい。




「 ……望…？」


突然の望の行動に、心臓がばくばくとうるさい。









桃『 ……Aさんは、』


「 ……え？」





消えそうなぐらい小さな声で私を呼んだ望は、掴んだ手を引っ張った。





……なんで私は、望の香りに包まれてるんだ。

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