10-36.嵐のあとに ページ36
「あ、葵ちゃん……大丈夫だから、先に行ってて……」
「そんなにボロボロなのに、大丈夫なわけないでしょ！」
試合が終わってすぐの登校日、私は通学路を普段の二倍の時間をかけて歩いた。亀より歩くのが遅い私に、葵ちゃんはずっと付き添ってくれた。
そして朝のホームルームが始まる直前になって、天馬くんと剣城くんが肩を組んで、お互いを支えながら教室になだれ込んできた。
決勝戦後のみんなは、言わずもがな満身創痍だった。
全身の怪我に筋肉痛が加わり、歩くたびに身体が軋む。
何も知らない生徒から「サッカー部の奴ら、動き変じゃない？」と言われてしまった。
よって、その日の部活はミーティングのみになっていた。みんなでミーティングルームに集まっていると、音無先生が少し不安げな様子で部屋にやってきた。
「どうしたんですか？」天馬くんがたずねる。
「実幡中の皆さんが来てるんだけど……」
私は思わず、机の上に置いていた手をぎゅっと握った。
結局、試合が終わってから実幡のみんなと話す時間はなく、そのまま解散になってしまったのだ。
「ロビーで待ってもらってるわ」
「じゃあ、行きましょう！」
天馬くんがはつらつとした表情で言った。胸に渦巻いていた不安が薄れていくのを感じる。彼を見ていると、何もかも大丈夫な気がしてくる。
ぞろぞろとロビーに向かうと、実幡サッカー部のメンバーと豪炎寺さんが待っていた。豪炎寺さんは、牙山の代わりに一時的に実幡サッカー部を引率しているらしい。
「夕方の電車で帰るから、最後に挨拶がしたいそうだ」と豪炎寺さんが説明した。
すると、天馬くんが一歩前に出て言った。
「昨日はありがとうございました！」
天馬くんは右手を差し出して、実幡のキャプテンと握手を求めた。
相手は戸惑った様子で天馬くんの右手と顔を交互に見てから、おずおずと右手を出した。
その手をさっと捕まえて、天馬くんは握手する。
すると、ロビーの張り詰めていた空気がほどけた。
どこからかそよ風が入り込んで、実幡のみんなと雷門のみんなの間を通り抜けていく。
実幡のキャプテンは、意を決した表情で言った。眉間にしわが寄っていて、怒っているようにも、今にも泣き出しそうな顔にも見えた。
「……すみませんでした」
握手した手をするりとほどいて、実幡のキャプテンは頭を下げた。
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春間(プロフ) - 匿名２号さん» コメントありがとうございます！ 面白いと言っていただけでとても嬉しいです。別作もよろしくお願いいたします！ (2022年3月25日 14時) (
レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
匿名２号(プロフ) - 面白くて時間を忘れて読んでました。必殺技の描写や試合運びなどわかりやすく表現されていてすごく参考になりました。ツインブースト打つくだりの話が特に好きです。素晴らしい作品をありがとうございました。アンソロの方も読みましたので別作も読んできます。 (2022年3月25日 8時) (レス) @page41 id: a481d4b51d (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - むすぶさん» コメントありがとうございます！ 楽しんでいただけて何よりです。嬉しいお言葉、励みになります！ (2021年8月31日 10時) (レス) id: 65d4199637 (このIDを非表示/違反報告)
むすぶ(プロフ) - はじめまして。とてもとてもとても面白くて、最初から一気読みしました！この小説に出会えて本当に良かったです。続編のご予定は無いとのことですが、夢主ちゃんとサッカー部や剣城とのその後が読んでみたかったです…春間さんの小説をこれからも楽しみにしています…！ (2021年8月25日 19時) (レス) id: c2d0a2f182 (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - mayaさん» コメントありがとうございます！ お褒めいただき光栄です。今後を読んでみたいというお言葉、とても嬉しいのですが、続編の予定はございません。申し訳ありません;; (2021年7月4日 16時) (レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/april_hrm
作成日時：2021年3月14日 19時
