1-3.逡巡 ページ3
「サ、ッカー部」
「うん！」
空っぽの胃が引きつる。苦しくて涙が零れそうになって、奥歯を噛んで堪えた。
どうして気がつかなかったんだろう。雷門中の松風天馬と言ったら、サッカー部をホーリーロード優勝に導いたキャプテンじゃないか。そして剣城くんもまた、雷門サッカー部が誇るエースストライカーだ。そうなると葵ちゃんはマネージャーだろう。転校初日に知り合った人がよりによってサッカー部の部員だなんて。浅はかだった。雷門中はサッカーの名門校なのだからそれなりに覚悟はしていたつもりだったが、考えが甘かった。
自分にうんざりしている私をよそに、葵ちゃんは「Aちゃんはどこの部活に入るの？」と私に尋ねた。
「あ、特に……決めてない」
「じゃあ、サッカー部の見学に来ない？」
松風くんはきらきらした目で私を見た。ここで私が「行く」と言ったら、きっとすごく喜んでくれるだろう。
でも駄目だ。
私にはサッカーに関わる資格がない。
どうしても駄目なのだ。サッカーは、サッカーだけは＿＿。
「天馬、困ってるぞ」
迫りくる吐き気に耐えていると、背後から低い声がした。振り返るまでもない、剣城くんだ。
「あっ、ごめん！ さすがに急だよね」
「ううん、大丈夫……」
安堵にふっと息が漏れる。胸を押さえると、心臓がうるさいくらい脈打っていた。
ふと気配を感じて隣を向くと、いつの間にか剣城くんがいてこちらを見ていた。鋭い目つきに思わず固まる。
「さっきの」
剣城くんは私にだけ聞こえる大きさの声で話し出した。
「悪気はないんだ。天馬は……ああいう奴で」
呆れたように浮かべた笑みも、松風くんを「天馬」と下の名前で呼んだことも意外で、「うん」と頷くのがやっとだった。
なんというか、剣城くん、見た目に反してわりと普通だ。
「松風くん、見学、今日は遠慮しておくね。ごめん」
「気にしないで。でも見たくなったらいつでも来てね。待ってるから！」
松風くんの屈託のない笑顔に罪悪感を覚えながら、私は礼を言った。
私がサッカー部を訪れることはないだろう。
もう二度と、私は失敗できないのだから。
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春間(プロフ) - 名無し40482号さん» 嬉しいお言葉ありがとうございます！ 励みになります。 (2020年10月7日 13時) (
レス) id: 71c8355ca9 (このIDを非表示/違反報告)
名無し40482号(プロフ) - とても綺麗で読みやすい小説で、感動しました…（ ; ; ）更新楽しみにしてます。 (2020年10月6日 14時) (レス) id: b02fa3353c (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - Ruiさん» ありがとうございます。申し訳ないのですが、占ツクの使い方がよくわかっていないので今回は遠慮させていただきます。コメントありがとうございました！ (2020年8月9日 11時) (レス) id: e235827dac (このIDを非表示/違反報告)
Rui - 初めましてタイトル凄くいい感じ！もしよかったら好きな作品出来るイベントもし参加出来たら嬉しいです勿論CSS付きも可能です。「 あなたの小説読ませて下さい。」です。 (2020年8月9日 0時) (レス) id: 79cb60a812 (このIDを非表示/違反報告)
春間(プロフ) - 充滞さん» ありがとう、頑張ります！ (2020年8月7日 19時) (レス) id: e235827dac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：春間 | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/april_hrm
作成日時：2020年8月5日 11時
