260 ラグナロク二回戦 [2] ページ30
無茶苦茶な動きをするチームをまとめるというのは難しすぎる。しかも、元々敵だった者同士により構成される混成チームだ。この混沌とした状況の中、なにも指示を出さない監督が信じられない。全責任をキャプテンの拓人くんに押し付けている。そんな強いプレッシャーの中でも、拓人くんは逃げずに真正面から試合に向き合い、司令塔として指示を出し続けた。神のタクトが上手くいきそうになったタイミングが全くなかった訳ではない。時にはちゃんとパスが続いていた。選手個人の能力は悪くない。協調性がないだけだ。
「天城さんはメイアを、狩屋はギリスをチェック！」
MFの私はこのポジションから動いてはいけない。でも、動きたい。でも、動いたとすれば、ピッチに穴が空いてしまう。そうなると、かろうじて保っている最低限の連携がさらに崩れてしまう。動きたい気持ちをぐっと抑えて、メイアとギリスを追うのを止めた。その時、司令塔の拓人くんが雷門のゴール前まで下がり出した。いつもの拓人くんであれば、自分のポジションから動くことはしないはず。でも、下がった。
「はあああっっ！！奏者マエストロ！アームド！！」
それでもメイアとギリスのシュートは止められなかった。拓人くんは棒立ちになったまま、一直線にどこかを見つめていた。拓人くんには重圧がかかっている。キャプテンと司令塔の責任に加え、まとまらないチーム、指示を出さない監督、好き勝手に動くメンバー...。彼の負担を軽減し、立て直さなくては。
「くそっ...どうする、このままじゃ...」
「たっくん、落ち着いて。まず、この現状を受け入れよう」
彼の両肩を掴み、こちらへ振り向かせた。動揺する目が見ている。
「このままだと点差が開いてしまう。まずは守りを固めないと」
「でも、どうすれば」
「ディフェンスの指示は私に任せて。拓人くんは全体を見ることに集中してほしい」
「...わかった」
結果的には、ザナークの撹乱のお陰で多くの失点を防ぐことができた。まだ1点を失っただけ。逆転の可能性は十分にある。ストライカーがエルドラドの中心メンバーで占められているから、幸いにもディフェンスのメンバーには指示が通りやすい。
「ディフェンスのみんな！私が指示を出す。どうか協力してほしい」
なんとか前半終了までゴールを守り切りたい。私の役目は、拓人くんが本来の洞察力を取り戻し、冷静な判断で皆を導けるようにすることだ。拓人くんの頭脳ならば、ギルに対抗できるかもしれない。
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作者名：充滞 | 作成日時：2024年3月4日 12時
