252 夜の散歩 ページ22
とうとう明日は決戦の日。目がギンギンとして眠れない。ホーリーロード決勝戦の前日もこんな感じだったっけ。こういう時は無理に寝るのではなく、逆に諦めて起きた方がいいと聞いたことがある。折角だし、外でサッカーしよう。無人のサッカーグラウンドでサッカーをしていると、何者かに声をかけられた。
「やあ。こんな時間にサッカーかい」
「貴方はたしかフェーダの皇帝の...」
「そうだよ。ボクはサリュー・エヴァン」
彼はただ話に来ただけらしい。彼に対して強い敵意はなかったので、会話を受け入れることにした。
「SARUこそ、こんな遅い時間まで起きていていいの？」
「ボクは明日試合に出ないからね。それに、長くは眠らないんだ」
「そうなんだ」
さらっと言われたけど、フェーダのトップである彼が明日試合に出ないというのは地味に重要な情報だ。後で仲間に共有しておこう。
「この時代には慣れたかな」
「うーん。あまり実感がないかもしれない。この時代のサッカー博物館に行ったくらいだよ」
「そう。だったら特別に、君だけに面白い景色を見せてあげる。ついてきて」
ついていってもいいのかな。そう思い、躊躇して立ち止まると、彼は振り向いた。
「ここの近くをふらっと歩くだけさ」
そう言って進んだので、後ろからついていくことにした。ライトアップされた夜を共に進んでいく。ところどころワープする地点があったり、光を放ちながら空を飛ぶ機械を見かけたり、空に浮く歩道の上を歩いたりした。現代とは全く違う。なにもかもが。
「ここがセントエルダ。ボクたちフェーダはこの都市を1年前に滅ぼしたんだ」
「えっ」
「でも、おじさんたちはすぐに再建した。ほんと、しぶといよね」
彼はクスッと笑う。そして、私に視線を向けた。
「ところで君は＿面白い存在だよね。君には過去がない。一体どこから来たのかな」
「！」
「言いたくなかったら言わなくてもいいけど」
「私は...別の世界から来たの。だから、過去がないように見えるんだと思う」
正直に言うことにした。隠すようなことでもない。
「へえ」
彼が特に驚くことはなく、共に歩き続けた。散歩コースは終了したらしく、ラグナロクスタジアムまで戻ってきた。
「じゃあ、ボクは帰るよ。おやすみ」
「うん。セントエルダを紹介してくれてありがとう」
「どういたしまして」
サリュー・エヴァン。話してみると、普通の少年だった。
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作者名：充滞 | 作成日時：2024年3月4日 12時
